第157話 座敷童?
これまた招かれざる客、ジデジルがやってきた。彼女は教会組織の上層部に所属していて、地位は総大主教。
女性でこの地位に就く事は大変珍しいそうだけど、今代の教皇が女性の為、総大主教も女性が選ばれた、と言われている。
「で? そんな立場のあなたが、どうしてここに?」
「どうして、とは心外な。神子様がお姿を隠されてから、私御身が心配で心配で」
心配だから、ここまで来たってか? 嘘吐け。
どういう仕掛けになっているのか知らないけれど、教会は神子である私の居場所をおおよそ知る事が出来る。
なので、私が北ラウェニア大陸のここコーキアン領にいるって、多分大分前からわかっていたはずなんだよね。
まー、ローデンを飛び出た辺りで接触してこなかったのは、多分教皇のユゼおばあちゃんがジデジルを押さえてくれていたからだと思うんだけど。
それが何故、ここに来て彼女がコーキアン領まで来たのやら。
当人は私の目の前で、優雅にお茶を飲んでいる。ジデジルは元々南ラウェニアにある大国の大貴族の出で、育ちがいい。
その彼女が、カップをソーサーに戻してにっこりと微笑んだ。
「実は、ローデンでのあれこれが私の耳に入りまして」
「え」
「ただの噂であれば良かったのですけど、やはり神子様に関する事である以上、確認を取らねばと思い、聖下と共にかの国を訪問いたしました」
「は」
「そうしましたら、神子様のお姿が見当たらないではありませんか!」
「う」
「ですので、神子様の安否を確かめる為に、私がここまで参った次第でございます。ご無事なお姿を拝し、私も安堵いたしました」
「えーと……」
ローデンでのあれこれって言うと、ヘデックの浮気の件かな? 一応、あれが直接原因であの国を飛び出ているし。
ただ、ジデジルの耳に入ったって事は、情報元は教会の情報網だよねえ? あそこ、とんでもない情報収集能力を持っているっていうから、もしかしたらローデン社交界での私の扱いも、聞いているのかもしれない。
よく見れば、ジデジルの笑顔が怖いわー。じいちゃんも気づいているらしく、ちょっと声が震えている。
「それで? 教会としてあの国にお仕置きでもしたのかの?」
「まあ、まさか。私共が手を下さずとも、あの国は不幸に見舞われておりますよ」
「不幸?」
私とじいちゃんの声が重なった。
「ええ、今年の冬は、記録的な豪雪だったそうです」
「豪雪……」
確か、ローデンって冬でも雪はあまり降らない土地なのに。山間部は降るけど、平地には降っても雨だけだったはず。
少なくとも、私がいた間に王都周辺では雪は降らなかった。どうなってるの?
そんな私の心を読んだようなタイミングで、ジデジルが楽しそうに言った。
「この冬降った雪はかなりの量ですから、春の雪解けは大変でしょうね。それに冬野菜や春野菜の出来も悪いそうです。おそらく、家畜にも何らかの悪影響が出るでしょう」
「なんで、そんな事がわかるの?」
怖い預言者みたいなんですけど? ジデジルは聖職者であって、預言者じゃないよね? 占い師でもないし。
私の言葉に、ジデジルは笑みを深めた。
「当然の事ですよ。得がたい貴女様を妃に頂いたというのに、ぞんざいに扱い、あまつさえ不貞を働きそれを周囲が認めるだなどと。神をも恐れぬ行いとは、まさにこの事です!」
って事は、今ローデンに起こっているあれこれは、もしや天罰?
最後は興奮したのか、声が大きくなったジデジルは、言い終えると深い溜息を吐いて再びカップを手に取る。
「おそらく、ローデンだけでなく、貴女様を愚弄した周辺諸国も同じ目に遭うでしょう。だから、あれ程神子様の身柄は教皇庁に渡すよう申し入れたのに」
プリプリ怒るジデジルを前に、じいちゃんと顔を見合わせる。まさか、南ラウェニアの国々がそんな事になっているとは。
ジデジル曰く、ローデン以外の周辺国でも、例年にはない大雪や大雨、凶作になっているという。
「うーむ、教会の聖典には、神子のいる土地は栄える、と記してあるのは知っておるが、まさか去った後にそんな事が起こるとは」
うーむ、いる間はいい事があるのに、去った後は没落とか、私は神子ではなく座敷童か何かだったのか?
首を傾げていると、ジデジルが再び口を開いた。
「現に、ここダガードは神子様がいらっしゃるおかげで栄え初めていますよね? 金鉱脈に銀鉱脈、ダイヤの鉱脈まで見つけたのでしたか? おそらく、神子様が過ごす年月が長ければ長い程、この国は栄えるでしょう」
「えー……」
何か、それもどうなの? そう言われると、ここから離れられなくなるじゃない。
国を出て行ったら、しっぺ返しのように異常気象やら凶作がくるとわかっていたら、ちょっと怖くて出て行けなくなっちゃうよ。
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