第156話 出たあああああ!!
ちょっと思うところがあって、本日はデンセットへ。朝の散歩と朝食を終えてから、じいちゃんに一声かけて徒歩移動。
「こんにちはー」
「おお、今日も元気そうだなあ」
門番の人とも、すっかり顔なじみだ。今日デンセットに来たのは、食材を買いに。
畑を作って野菜を育てているとはいえ、まだ収穫にはほど遠い。成長が早いから、もうじき食べられそうだけど。
大豆は半分枝豆で食べる予定。残り半分は味噌と醤油の原料に。海に行けば昆布が手に入るけど、鰹節はまだチャレンジしていない。
まずは鰹を見つけるところからかな?
『魔大陸の近くで、「キタカツオ」という種がとれます。こちらで鰹節の制作が可能です』
お、おう。ありがとうございます、検索先生。合わせ出汁が作れれば、料理のレパートリーが増えるよね。
おばあちゃんっ子だったから、よく一緒に台所で料理していたんだ。キッチンじゃなくて台所。おばあちゃん家の古い台所、懐かしいなあ。
そこで出汁の取り方とか全部教わったんだ。うちの母、料理苦手だったから教わる事はなかったし。
鰹節はそのものもおいしいから、削り節にして使うといいよね。冷や奴とかにも合う。あー、豆腐も作ろうっと。大豆とにがりと水だから、材料に問題なし。
別に和食を広めるつもりはないし、自分に「和食」が作れるか? ってところもあるけど、いわゆる日本の「家庭料理」なら何とかなる。
誰かに食べさせる為のものではなく、自分が食べる為のものだから。多少不格好でも味がいまいちでもいいんだ。
あ、田んぼ作って稲も育てなきゃ。お米は大事。
何か、地下にテーマパーク作るどころじゃなくなったな。忙しいや。
デンセットの市場も賑わっている。春先に売られるのは、春野菜と冬野菜が混ざってる感じ。
後は川で採れる魚とか、魔獣の肉とか。よく見ると、野菜はあまり出来がよくないように見える。
なんと言うか、しなびた感じのものが多い。葉野菜はくったりとしているし、根菜類は痩せて小さい。
やっぱり土地が穢れていた影響かな。
『それもありますが、元々の品種的なものが多いです。葉野菜に関しては、保管手段がない為みずみずしさが早く損なわれています』
そうなんだ……って、最近検索先生の進化が凄いんですけど!? こっちから聞く前に答えてくれるなんて!
『この地において、神の力が正常に働くようになった為です』
そうなんだー。検索先生の能力も、神様由来なんだね。だから私だけが使えるのか
な? これでも一応、神子ですから。
市場の店先を見回り、魚とお肉、いくつかの根菜を買って帰る。市場から門への途中に組合があって、その前に通りかかったら、いきなり扉が勢いよく開かれた。
音にびっくりして組合を見ると、大変見知った顔がいる。
やべ! と思って猛ダッシュ。色々魔法を使ってあっという間に砦に逃げ帰った。
「おお、お帰り……何か、あったのか?」
相当酷い顔色をしていたんだろうな。心配そうなじいちゃんに、一言だけ返す。
「出た」
「でた? 何がじゃ?」
「そう――」
「神子様ああああああああ!!」
「うぎゃああああああ!!」
いつの間にか追いついていて、砦のセキュリティも全てぶち抜いた「彼女」が、私の背後から抱きついてきた。く、苦しい……
「お主、ジデジルではないか?」
「まあ、これは賢者様。お久しぶりでございますね!」
そう、今私に全力で抱きついているこの女性は、教会の重鎮、総大主教のジデジルだ。ちなみに、賢者というのはじいちゃんの教会における称号。
本来は教皇であるユゼおばあちゃんの側についているべき人なのに、何でここにいんのよ? つか、苦しくて気が遠くなる……
「久しぶりは久しぶりじゃが……いい加減、その手を離さんか。苦しがっておるぞ?」
「え? あら?」
やっとジデジルの腕の力が弱まったので、苦しみから解放された……はー。
「あのままあの世のおばあちゃんのところへ行くかと思った……」
「大丈夫か? サーリ」
「何とか……」
ジデジルの手から逃れて、じいちゃんの背中に回る。本当にもう、手加減っってものを知らないんだから、ジデジルは。
私に満身の力で抱きついていた当人は、きょとんとした顔でこちらを見た後、何かに納得したように一つ頷いた。
「ああ、今はサーリと名乗っておられるのですね?」
「う、うん。神子の名前を出す訳にはいかないから」
「なるほどなるほど。わかりました。ではこのジデジルも、これより神子様の事はサーリ様とお呼びいたします」
「いや、様はつけないで」
「それは出来ません」
くそう、凄いいい笑顔で言ってるー。頑固だからなあ、ジデジルは。
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