第153話 試し掘り
あっという間に試し掘りの日。結局、追加の報酬はもらいに行く事になりました。今日の帰り、領主様のお屋敷……お城? に寄ってもらっていく予定。
領主様達とは、現地で集合。私達は空を行くからね。空の散歩代わりって事で、ブランシュとノワールも一緒。
空を飛ぶときは大きくなって、今は小さい姿で私の懐の中。春とはいえ、山の中はまだ肌寒いから、温かくていいなあ。
試し掘りに参加するのは、領主様と側仕えの人、フォックさん、何故か剣持ちの人。
「待たせたかな?」
「大丈夫です。私達も、少し前に到着したので」
山は道がないから、領主様達は大変だっただろうなあ。と思っていたら、彼等の背後に簡単な道が見える。あれ? 作ったの?
そういや、見た事のないローブ姿の人がいる。格好からして、魔法士かな?
私の視線に気づいたのか、領主様が笑った。
「ああ、ここまでの道は、彼に作ってもらったんだよ」
「彼?」
領主様が指し示したのは、あのローブの人だ。
「彼の名はロアフ。元ウーズベル伯お抱えの魔法士だ」
「え……」
あの、反乱企ててた人のところ? てか、やっぱりいたんだ。領主様に紹介された人は、フードを深くかぶって顔を見せようとしない。
何だか怖がられているような? 私、何かしたっけ? ……したね。反乱軍が集まってるところから、武器防具物資、全部取り上げたんだった。
このロアフって人があの時あの場にいたなら、見られてたよね。だからかー。
怖くないですよーって伝えたくて愛想笑いをしたんだけど、余計に引かれたのは何でだろうね?
試し掘りは、すぐに始められる事になった。
「それにしても、深い山よな」
領主様が周囲を見回しながら呟く。人の手が入っていない山だからね。足下も岩がゴロゴロだから、歩きにくいったらない。
ここまでは空を使ったからいいけど、試し掘りする場所までここから少し歩くから。
うーん、地面から三十センチくらい浮かんで移動出来る乗り物、欲しいなあ。ほうきでもいいんだけど、あれは見た目がね……
一行で向かったのは、ちょっと開けた谷間。ここから下へと掘っていこうという訳。
じいちゃんが懐から袋を取り出した。それを逆さにして無造作に中身をばらまく。中身は楕円形のガラスのようなものだ。
「何じゃ? それは」
「これが、掘削する為の道具ですじゃよ」
じいちゃんの言葉が終わるのか終わらないかのタイミングで、ばらまいたものの周辺に土が集り始めた。
さっきばらまいたのが、土人形の核。それが壊されない限り、土人形達は動き続けるんだ。
本当はじいちゃんの命令以外聞かないんだけど、今回は別の人にコントロールを任せるから、調整してるって言っていたっけ。
って事は、本格的に始動した場合、あのロアフって人がコントロールするのかー。
驚く領主様達の前で、土人形達は地面に穴を掘っていく。土人形の両腕、ドリルになってるよ。
ちょっと笑っちゃったら、背後で声がした。
「なんで、ドリル?」
ん? 振り向くと、あのロアフという人だ。やっぱりフードであんまり顔は見えないけど、
今、彼、ドリルって言ったよね?
この世界では、まだドリルとか発明されていないはず。じいちゃんに教えたのは私だし。
じゃあ、なんで彼はドリルを知っているのか? もしかして、私以外にも地球から召喚された人って、いるのかな?
『神子以外の召喚実績はありません』
あ、そうなんだ。ありがとう、検索先生。でも、そうすると?
『彼は転生者です』
転生者! いるのか! わー、ちょっと前世の話を聞いてみたい。でもロアフって人、私を見ると何だか避けるんだよね。
やっぱりあれ? ウーズベルでの事がトラウマになってるとか? でも、前世の記憶があるんなら、あの程度どうって事ないよね?
本当、なんで?
「おお、凄いな。もうあんなに掘り進んでいる」
私が首を傾げている間にも、じいちゃんの土人形……いいやもう、ロボットで。ドリルロボットは既に四体が穴の中に入っていて、残りも後に続くよう穴の付近で待機している。
掘ると土砂が出るから、それを運び出す用のロボットもいるんだよね。今回は試し掘りなので、数は少ないけど。
これが本格的になってきたら、もっと数を投入するんだって。ロアフ君、頑張ってコントロールしてくれたまえ。
試し掘りの結果、無事ダイヤの原石を掘り当てた。いや、あるのはわかっていたから、私達にとっては当然だったんだけど。
半信半疑だった領主様にとっては違ったらしい。信じられないといった様子だよ。
でも、現物があなた方の手にありますよね? で? どうしますか? じいちゃんのあの土人形、レンタルしますか?
その場で仮契約が成立、この後領主様のお城で正式に書面での契約と決まりましたー。
良かったね、じいちゃん。
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