第148話 向こうから来たー
朝のルーティンワークを終えて、朝食を食べて一息。今日はどこに手を入れようかなー?
「その前に、領主殿のところへ交渉に行くんじゃないのかのう?」
あ、うっかり忘れてた。組合の方からも、銀鉱脈の件は報告が行ってるだろうから、追加って事で行っても大丈夫かな?
でも、領主様のところに行くのって、前もって行く日にちとか決めておくべきだよね? アポなしはいかん。
と思っていたら、アポなしで向こうからやってきた。
「やあやあ! 昨日フォックから報告を受けてねえ! いても経ってもいられなくて、来てしまったよ!」
領主様、フットワーク軽いよね……本人曰く「ちょっとしたものだ」と持ってきてくださったのは、領主様お抱え料理人特製のお菓子!
タルト生地っぽいものの上に、蜂蜜がけのナッツがたっぷり。これ、絶対おいしいやつだ。
「ふむ、以前来た時にはよく見られなかったが、なかなか綺麗に修繕したではないか。たいしたものだ」
そういえば、領主様が砦に来るのは、二回目? 銀髪陛下は何日か泊まっていったけど。
来客棟に案内しようかと思ったけど、外観から丸塔に興味を示したようなので、そちらに。
ここ、私とじいちゃんの寝室とかがあるんだけどな。
「押しかけて済まぬな。以前の砦にも、これと似た形の塔があっての。子供の頃に、外から見た事があったのだ。懐かしい……」
元々、この砦は領主様のものだったしね。棲み着いちゃった魔獣を討伐したご褒美にもらったものだ。
「取り壊す事なく、新たな姿を与えられた砦は、幸せものよのう」
丸塔の屋上で視線を遠くにしながら、領主様がぽつりと呟く。領主様も、本当はこの砦を壊したくなかったんじゃないかな。
ただ、あのまま放っておくと、また魔獣が棲み着いたり、盗賊がアジトにしちゃうから、仕方なく壊そうと思っただけで。
しばししんみりしていた領主様だけど、一挙に話しを変えてきた。
「さて、何やら山の方で面白いものを見つけたようだのう?」
「ああ、ええと……」
私は、ダイヤの鉱脈がある事、かなり深いので、今の技術では掘削が無理な事、じいちゃんの力を借りれば、掘削可能な事を説明した。
「ふむ……バムとやら、本当にそなたの力なら、ダイヤを掘り出す事は可能かね?」
「無論じゃ。何なら、領主殿の目の前で、試し掘りをしても構わんよ」
「おお! まことか!?」
無言で頷くじいちゃんに、領主様はあっという間に試し掘りの日取りを決めてしまった。早!
「ところでバムよ。どのくらいでその技術を売ってくれるのじゃ?」
「技術は売りませんぞ、領主殿。貸すだけじゃ。料金は、ダイヤの売り上げの二割」
あ、やっぱりそこは譲らないんだ。何だか、領主様のお付きの人達の顔が怖くなってるけど、見なかった事にしておこう。
当の領主様はといえば――
「少し訊ねるぞ? そなたの技術を使ったとして、工夫はどれくらい必要かのう?」
「工夫なんぞいりませんて。そうじゃな、魔力持ちが一人、方向指示なぞの為に必要かのう」
「……その魔力持ちは、どの程度の魔力が必要か?」
「最低限、魔法士と名乗れるだけあれば十分じゃ」
何故か、このやり取りで領主様の額に汗が浮かんでる。
「お主、やりおるな」
「ほっほっほ、領主様ほどではございませんよ」
……何だろう、このやり取り。時代劇の悪役みたい。おばあちゃんが好きで、よく一緒に見てたんだよなあ。
結局、じいちゃんの申し出が受け入れられて、試し掘りの結果を受けて契約がなされる事になった。
領主様、ほくほく顔で帰って行ったよ。お付きの人は渋い顔していたけどねー。
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