第144話 新しい依頼

 領主様の話では、ウーズベル伯を中心とした反乱を鎮めた中心地がコーキアンなので、その功績から旧ウーズベル領を賜った、という事らしい。


「そうなんですねー」

「そこで、サーリに依頼したい事がある」


 ああ、領主様はお仕事の話を持ってきたのね。割と普通な訪問理由だった。他二人の訪問理由がなあ。


 銀髪陛下は、未だにかみつきそうな顔でこっちを見てるし。剣持ちさんは、そんな銀髪陛下をなだめるのに必死だ。


 そもそも、なんで銀髪陛下にこんなに怒られなきゃいけない訳? 私、まだこの国の国民じゃないんだけど。


 砦をもらって住んではいるけどさ。いわゆる市民登録はしていないよ? いいとこ流民か移民扱いなんだけどなあ。


 とはいえ、身分は庶民なので、自国ではなくとも王侯貴族相手にする態度をしていないのは、自覚してる。


 不敬だなんだ言うんなら、本当にこの国出て行くよ。大体、気に入らないならここにこなければいいんだから。


 まあいいや。今は領主様の持ってきたお仕事の話。


「何ですか?」

「うむ、実はウーズベルにも未開発の山がいくつかあってな。そこの資源調査をしてほしいのだ」

「あー、金とか銀とか銅とかの鉱脈目当てですか?」

「それ以外にも、資源があるか調べてほしい。無論、魔獣も素材と考えてくれ。それと、山裾が開拓可能かも、見てきてほしいのだ」


 あー、なるほど。新しく領地になった場所だから、情報が必要な訳だ。実際に開拓するかどうかは置いておいて、可能かどうかを知るのは大事だもん。


「わかりました。行ってきます」

「いやいやいや、今すぐでなくていいからな!? ちゃんと組合の窓口で、依頼を受けてから行ってくれ」

「あ、そっか」


 冒険者なので、依頼を受けてから行かないとね。これって、指名依頼ってやつかな? 仕事をきちんとこなしてると、希に依頼者から指名を受けるって、どっかで聞いたなあ。


 でも、私、組合通しでやった仕事って、結構少ないんだけど……


「私の方はこれで終わりだ。組合の方にはちゃんと話を通してあるからな」

「ありがとうございます!」


 こういうところが、領主様は信頼出来るんだよね。本当、こんないい人が貴族とか、信じられない。


 向こうの大陸でも、いい貴族もいたけど、圧倒的に「どうなの?」って貴族の方が多かった。


 それに、ローデンでの経験もある。どうしても、王侯貴族相手って、身構えちゃうんだよね。


 その前に、一介の冒険者になんで領主やら国王やらが絡んでくるの? おかしくない?


 まあいいや。依頼の話が終わった領主様は、ぐずる銀髪陛下を引きずって帰ってくれたから。本当、いい人。


 それにしても、ウーズベルはコーキアンに編入かあ。これでコーキアン領はダガードでもかなり大きな領になるね。


「ねえ、じいちゃん」

「何じゃ?」

「コーキアンが大きくなりすぎると、不満を言う人達って、いるんじゃないの?」

「そりゃいるじゃろうよ。それを制御するのも、あの領主殿の手腕じゃ」

「そっか……ところで」


 私、忘れてないからね?


「説教されてる私を放って、我関せずって顔をしていたよね?」

「はて? 何の話しかのう?」

「とぼけるなあ!!」


 本当、食えないじいちゃんだよ! なので、今夜の夕飯にはお酒を出してあげなかった。


 お酒類は、全部私の亜空間収納に入ってるから、じいちゃんじゃ出せないんだ。


 何か言いたそうにしていたけど、知らない。

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