第143話 ウーズベルのその後

 砦に戻ったからには、やるべき事がある。そう! 温室に、向こうの大陸で仕入れた苗木を植える事!


 特に砂糖の木は大事。あと、ウィカラビアの手前辺りで手に入れたコーヒーの苗木。これでコーヒーの実が収穫できれば、自前でコーヒーを作れる。


 夢が広がるねえ。あ、牛乳……というか、ミルクを定期的に購入出来る店があるかどうか、デンセットで調べておこうっと。


 苗木を植えるのは、無事終了。温室も、ちゃんと冬を越えられたらしい。どこもヒビが入ったり割れたりしてないし。


 さすがはドラゴンの鱗だね。ドラゴンと言えば、ここを留守にしている間にも、何回か果実のお届けに行ったんだよなあ。


 そんなに鱗も爪も牙も増えてないから、もらえるものはなかったけど。相変わらず、キンキラのお宝を持っていけって言っていたっけ。


 そんなのくれなくても、鱗と牙と爪で十分だっての。ちゃんと果実は届けるから、心配しないように言ったんだけどねえ。


 あれか? おじいちゃんとかおばあちゃんが、孫とかに「あれも持っていけ」「これも持っていけ」っていうのと一緒? ドラゴン、結構な年だし。




 苗木も香草も植え終わった後、角塔でじいちゃんとのんびりしていると、護くんからお知らせが。


『来客です』


 誰だろ? 護くんから送られた来客の画像を見たら、そこには見たくない顔が。


「げ」


 何故いる、銀髪陛下。それに、剣持ちさんも。あ! 領主様までいるじゃないの!!


 入れないわけにいかないし……じいちゃんを見ても、我関せずって顔してる。


「……入れて」

『了解しました』


 第三区域の門を開けて、三人を通す。気のせいかな? 走ってる足音が聞こえてくるんだけど。


 第一区域と第二区域の門は開け放してあるから、一番外の門を抜ければ、あとは素通りなんだよね。


 そして、角塔の扉が凄い勢いで叩かれてる。


「サーリ、おとなしく出てこい!!」

「……私は立てこもり犯かなにかなの?」


 扉が壊れるんじゃないかって勢いで叩かれてるよ。まあ、木材は全て妖霊樹を使っているので、滅多な事では壊れないけど。


 どちらかというと、叩いている銀髪陛下の手の方が腫れるんじゃないかな?


「はー……そんなに叩かなくても聞こえてますー。いらっしゃいませー」


 やる気のない声になったのは、勘弁してほしい。そして、扉の向こうには、怒れる銀髪陛下とあきれ顔の剣持ちさん。


 そして、何故かニコニコと笑っている領主様がいた。どういう組み合わせよこれ。


「何故そんなに嫌そうな顔をするんだ?」

「嫌だからに決まってますー。招かれざる客って言葉、知ってますー?」

「おま! 俺の身分を忘れたか!!」

「あー、そうやって身分を振りかざすなら、速攻この国から出て行きますー。短い間でしたがお世話になりませんでしたー」

「き、きききき」

「陛下、そのくらいで」


 怒りすぎたのか、銀髪陛下が妙な言葉を口にしているけど、領主様になだめられて剣持ちさんに押しつけられてる。


 領主様、何気に銀髪陛下の扱い、酷くないですか? いや、私の態度もどうかとは思うけど。


「今日はな、ウーズベルのその後を説明しておこうと思って来たのだよ」

「ウーズベル?」


 そういえば、帰ってくる時上を通ったよなー。特に軍が集まってる様子は見えなかったけど。


「あの後、コーキアン領にウーズベル伯に雇われていたという魔法士が来てな」

「へ?」

「どうやら、混乱に乗じてウーズベル領を逃げ出してきたようなのだよ」


 ウーズベル、魔法士を雇っていたんだ。いや、それはそうか。いくら北ラウェニアには魔法士が少ないって言ったって、仕事があれば流れてくるよね。


 領主様は、面白そうに続けた。


「その魔法士がな、伯の反乱の証拠まで持ち込んできたのよ」

「ほへ!? 証拠?」

「おお。近隣領主と交わした、同盟書よ。反乱を起こして王家を潰し、自分達が成り代わるつもりでおったらしい」


 えー……いくらなんでも、地方領主達が集まっただけで、一国の王家を滅ぼすとか、出来るの?


 思いっきり胡散臭いものを見る目をしていた私に、領主様がにこやかに教えてくれた。


「その証拠のおかげで、伯の反逆罪が確定してな。同盟を結んでいた近隣領主達も軒並み捕縛、家は取り潰しとなり、いくつかは王家の直轄領となった」

「じゃあ、ウーズベルも直轄領に?」


 だから、あんなに落ち着いていたのかな? でも、私の質問に、領主様は笑みを深めた。


「ウーズベルはな、我がコーキアン領の一地方となった」

「はあ!?」


 多分、本日一番の驚きポイントだった。

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