早春

第141話 ただいま

 ウィカラビアから飛行船に乗り換えて、再び海の上。のんびり進みながら、冬の間のあれこれを話す。


「心残りは、折角築いた拠点を、ほとんど使わなかった事……」

「まあ、移動、移動の毎日じゃったからのう」

「次の冬こそ! 拠点でのんびりまったり過ごす!」

「また冬になったら、ダガードを出るつもりじゃったか……」


 だって、北の冬って寒そうなんだもん。寒いの苦手。暑いのも苦手。


 ダガードは、これから春になるから、暖かい季節だね。まあ、南に比べると、やっぱり肌寒い日が多いんだけど。そのくらいなら、我慢出来る。


 飛行船は、のんびり、でも確実に北ラウェニア大陸に向かっていた。




 ゼフから北ラウェニア大陸に辿り着くには、多分あの船の大きさだとまだ無理なんじゃないかなあ。結構広いからね、この海。


 もう少し大きな船か、魔法技術が発達して物資をたくさん積めるようになれば、あるいは辿り着けるかも?


 他には、私達のように、空を行くか。でも、空を飛ぶ術式って、結構面倒だそうだから、難しいかもね。


 私の場合は検索先生が大分助けてくれました! ありがとう! 検索先生。


「おお、そろそろ北ラウェニアに到着する頃じゃな」

「あ、本当だ」


 ロビーから見える景色に、海岸線が見えてきた。北ラウェニア大陸だ。まだ大分東だから、ダガードはもうちょっと先になるけど。


 帰ってきたんだなあ。




 北ラウェニア大陸を西へ。ダガードは北でも西側に位置する国だからね。コーキアン領は、ダガードの中でもさらに西だしなあ。


 あ、帰る途中、ウーズベルの上を通るじゃん。あの後、どうなったんだろうね?


 意識して見てみたけど、特に何か動いている様子はないなあ。領都の辺りも飛んでみたけど、軍が集結しているようには見えない。


 反乱、諦めたのかな?


 ウーズベルを超えると、もうコーキアン領。まずは領都の上を飛んで、もうじきデンセットが見えてくるはず……見えた! 砦も!


 冬の間だから、四ヶ月くらい留守にしただけなんだけど、何だか凄く懐かしい。


 不思議だね。砦で過ごした日数は、留守にした日数よりも少ないのに。やっぱり自分で手を入れた場所だからかなあ?


 まずは砦に下りて、一休み。その後は、デンセットに帰ってきたよと挨拶にいこうかと。


 ……怒られるかな? お説教されるかな? あー、何だか段々行きたくなくなってきた。


「何をグズグズ言っておるんじゃ?」

「デンセットに『帰ってきたよ』って挨拶しにいくの、行きたくなくなってきた」

「行っておかんと、後が大変じゃぞ?」


 わかってるんだけどねー。もう、明日に回しちゃおうかな?


 そんな私の心を読んだように、砦で荷物整理とかしていたら、来客が来た。


 なんと、フォックさんとローメニカさん、それに剣持ちさんが馬を飛ばして来たらしい。


「サーリ! 戻ったのか!!」

「あ、フォックさん、ローメニカさんも……あれ? 何で剣持ちさんまで?」

「陛下に依頼されたのだ! 私とて、陛下のお側を離れるなど、本意ではないわ!!」


 いや、出た途端そんな怒鳴られましても。ローメニカさん達がどうどうと押さえてる。


 それにしても、剣持ちさんで通じるようになったとは。確か、ちゃんと名前あるよね? 憶えてないけど。


「とにかく、無事に帰ってきて良かった」

「本当ですよ。一時はもう帰ってこないものかと……」


 フォックさんとローメニカさん、何だか涙ぐんでる。え? 何で?


「ちゃんと春になる頃に帰るって、じいちゃんから伝えておいてもらったはずだけど?」

「旅がどれだけ危険なものか、わかって言ってるのか!?」


 そこからは、フォックさんと何故か剣持ちさんからの説教を受けました。解せぬ……

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