第139話 お仕置きだああ!

 さて、緑の屋根の屋敷。地図地図っと……お、ここだな。


 屋敷に到着し、上から見てみる。表札とかが出てる訳じゃないから確認出来ないけど、検索先生が間違うはずがない。


 では、屋敷の中に潜入してみよう。


「あ、じいちゃんはここで待ってて」

「置いてけぼりは勘弁じゃぞ?」

「でも、ほうきのまま中に入るから、籠を吊り下げたままだとちょっと……」

「ふむ……なるほど。では、ここで秘密の道具じゃ」


 そう言って、じいちゃんが懐から取り出したのは、小さい絨毯。何これ?


「ふっふっふ。お主ばかり飛ぶ手段を持っているのは悔しいのでな。飛びウサギの毛を使って、空飛ぶ絨毯を作ったんじゃよ」

「おおー!」


 何と! じいちゃんも空を飛ぶ道具を作っていたとは!


 あれ? じゃあ、今までほうきにぶら下がっていたのは、何で?


「それがのう……この絨毯、浮かぶのはいいんじゃが、飛ぶ速度は遅くてな……」


 つまり、ほうきに置いてかれるから、今まで通りぶら下がっていた、と。


 ……ま、まあ、いいか。屋敷の中をこっそり進む分には、そんな速度はいらないし。


 いざとなったら、ロープか何かでほうきと繋げて、引っ張っていけばいいだけだ。


 という訳で、絨毯に乗って浮いてるじいちゃんとほうきに乗ってる私を丸ごと指定して、ステルスの術式をかける。これで人からは見えないぞ。


 屋敷への潜入は、割と簡単に出来た。貴族の屋敷って、扉とかが無駄に大きいんだよね。なので、それらが開いた時にするっとな。


 この屋敷、大きいし使用人も多いんだけど、なんとなく人が少ないエリアがあるんだよねー。


 で、ここでも検索先生にお願い! 伯爵、どこにいるの?


『今いる場所から進行方向にまっすぐ進み、突き当たりを右へ。廊下の真ん中辺りにある扉の向こう側です』


 おお、具体的なお答え、ありがとうございます!! まずは進行方向へ進めばいいんだな?


 ほうきと絨毯でそろそろと進んでいくと、確かに真ん中辺りに扉がある。廊下も広いし天井が高いから、天井付近まで浮いておいた。


 それから、部屋の中の様子を窺う。魔法って、便利よね。


 お? 部屋の中にはおじさんとおじいさんが一人ずつ。何か話してるよ。何々?


『そうか。成果は上々なのだな』

『はい。ゼフからは、予定通りに納められると報せがきました』

『そうかそうか。最近、商船達の足が鈍っておったからな。少しヒギンダの連中にはおとなしくしていてもらおう』

『ですが、そうしますと、閣下への献金が間に合いません』

『何、金を得られるのは海の上ばかりではあるまい。他にも、領内で荒稼ぎしている連中から搾り取ればいい』

『承知いたしました』

『閣下への献金が増えれば、我が家の王都での権力も高まるというものよ。はっはっは』


 なーにが「はっはっは」だ! 人を苦しめてまでお金を得て、しかも誰かもっと偉い人に渡して権力を得ようだなんて!


 許さん。別に関係ないけど、なんとなく許せん。背後からじいちゃんの「サーリ、落ち着け」という声が聞こえた気がするけど、多分気のせい。


 こんな悪い奴らは、お仕置きしちゃってもいいよね!? 検索先生!


『構いません。存分にやっておしまいなさい』


 おお! 検索先生から答えが返ってきた! よし、先生のお許しも出たから、張り切っていこう!


 まずは扉をばーんと開ける!


「な、何だ!?」

「何事です!?」


 何事も何も、あんた達を引きずり出す為だよーん。次は二人の襟首を魔法で掴んで、そのまま吊す!


「うおおお!?」

「な、何なんですかあああ!?」


 お次は、二人に本当の事しかしゃべれないような魔法をかける。これ、結構ヤバ目な術式だから、じいちゃんに封印しておけって言われたやつ。


 でも! 検索先生が存分にやっていって言ったから! しっかり術式をかけたら、今度は吊したまんま表玄関からばーん!


「うぎゃあああ!!」

「う、うーん……」


 あ、おじいさんの方が気を失っちゃった。まあ、いいか。悪人だし。死んでないからオーケーオーケー。


 さて、お次は二人を屋敷の屋根に持ち上げる。


「う、うう……」

「……」


 あ、伯爵の方も、泡を吹いちゃったよ。どうしようかな、これ。本当の事を、本人達に話させようとしたのに。


 とりあえず、屋根に出っ張りを勝手に作って、そこに引っかけておこう。一応、落下防止の為の措置もしておく。魔法って、本当に便利。


 うーん、どうしたものか……あ! 水かければ、意識が戻るんじゃないかな?


 と言う訳で、でかい屋敷の庭にある池から水を呼び出して、二人にザバーっと。


「う、うおおおおお!?」

「ひいいい」


 さて、意識が戻った二人に、どうやって「閣下」とやらの事を喋らせようか。


 背後では、じいちゃんが頭を抱えてるようだけど、まーいっかー。どうせ周囲には私達の事は見えないし。バレないって。


「だ、誰か知らんが、わしにこのような事をして、ただですむと思っておるのかああ!?」


 えー? さっきまで怖がって気を失っていたくせに。偉そうだな、このおっちゃん。


 あ、伯爵だから、一応偉いのか。でも、海賊と手を組むような、腐った貴族だからなあ。


「わ、わしにはこのウィカラビアでも最高の地位を持つコアトーラ侯爵閣下が付いているんだからな! あの方には、たっぷり献金をしているんだ! 閣下もわしの事は見捨てたりはせん!」


 お? 勝手に喋ってくれたよ? ふんふん、コアトーラ侯爵、ね。


「いけません、旦那様。ここのところの海の魔物騒ぎで商船の数が減り、海賊共も成果が落ちておりますとご報告申し上げたではありませんか! 次の献金まで、もたないかもしれません、と」

「ええい、海賊共に他の港も襲わせればいい。海の魔物だなどと都合よく誤解しているのだ。この隙にたっぷりと稼いでわしに金をよこすのだああ」


 おお、ちゃんと魔法が効いてるね。よしよし、その調子であれこれ話してくれたまえ。


 そろそろ、この騒ぎを聞きつけて、兵士達が集まってるよ。多分、王都の治安を守る部隊なんじゃないかな?


 あー、兵士の人達も首を傾げてるわー。それと、この屋敷の使用人達の一部が、何か叫んでる。


「海の魔物が、海賊だっただって……?」

「しかも、その海賊が領主である伯爵様と手を組んでる……?」

「じゃ、じゃあ、今まで沈んだ船は、全部……」


 捕捉説明、ありがとうございます。あ、兵士達の顔つきも、段々変わってきた。誰かがどこかに走りましたねえ。


 報告なのか、それとも応援を呼んだのか。両方かな?


 でも、国のかなり上にいる侯爵が背後についているからなあ。ついでに、侯爵の方もこの伯爵と同じ事、してこーようっと。


 さて、検索先生! コ……コ……コーラ侯爵? の居場所はどこですか!?


『コアトーラ侯爵です。居場所は王宮の一室、宰相の執務室ですね』


 って事は、コーラ侯爵って、宰相なの? この国、大丈夫?


 まあいいや。王宮って事は、王様もいるんだろうし、その真ん前で色々暴露してもらいましょうや!




 王宮は白亜の城でした。綺麗だなあ。ちょっと、世界遺産を思い出すね。

 その王宮の、奥まった一室に例のコーラ――


『コアトーラです』


 ……その侯爵がいるそうな。


 じいちゃんと一緒に王宮の上に来てます。執務室の場所は、検索先生が細かく地図で指示してくれたから大丈夫。


 よし、行きますか。


 大きな扉の向こうを探る。執務室には、数人いるみたい。どうしようかな? 全員悪い人なのか、それとも侯爵だけが黒なのか。


 扉の前で迷っていると、誰かが廊下を駆けてくる。その人は扉を乱暴に開け放って、中に突入した。


「何事だ? 騒々しい」

「し、失礼いたします! 実は、先程王都のギジゼイド伯爵家で異変が起こりました!」

「伯爵家で? 異変とは、何だ? 具体的に申せ」

「は……それが、伯爵がご自身の領地であるゼフの港から出港する商船を、海の魔物と見せかけて海賊に襲わせ、海賊から金品を受け取っていたと言っているのです。しかも――」

「何だと?」


 この人がまだ話してる最中なのに、侯爵ってば、遮っちゃったよ。この先がいいところなのにさあ。


「領主が賊と通じるなどあってはならん事だ。事の次第を調査し、ただちにギジゼイド伯爵を捕縛せよ」

「は……はあ……」

「何をしている! 早く行かんか!」

「その……伯爵は、得た金品を、コアトーラ侯爵閣下に献上した、と」


 室内の空気が、ざわついた。お、侯爵以外の人達は、加担していなかったのかな?


『一人、仲間がいます。今、こっそり書類を握りつぶした人物です』


 なぬ!? もしや証拠隠滅か!? よし、その手の中の握りつぶした書類、こっちによこしなさーい。


「あ!!」


 握りつぶした人の手から、くしゃくしゃの書類をゲットー。そのままひらひらと部屋の外へご案内。


「ま、待て!!」


 書類に待てと言って待つわけないのにね。それに、書類と一緒に本命の侯爵も吊り上げて引っ張り出す。


「うぬ!」


 むー、さすがは侯爵という感じ? 伯爵やおじいさんと比べると、反応が薄いなあ。


 ……あれ? 何か、今の私、おかしくね? こう、ちょっとはしゃぎすぎっていうか……あれ? あれ?


『いわゆる「ハイ状態」になっていたようです』


 マジですかー!? いかん、落ち着け自分。でも、何でハイ状態?


『ここまで連続して大量の魔力を行使した為だと思われます』


 魔力って、たくさん使うとハイ状態になるの? 知らなかった……


 では、仕切り直して。吊り上げた侯爵が何やら怒っておりますが、怒鳴り声は遮断しておこうっと。


 侯爵と、書類を追っかけた男性……役人かな? 彼にも伯爵達同様本当の事しか話せない魔法をかけておく。


 あ、黙秘されると困るので、聞かれた事には答えないといけない魔法もかけておこうっと。


 さて、書類と役人と侯爵を吊り上げて、どこへ行くかと言えば、もちろんあの人のところです。


 この国、ウィカラビアの国王陛下。名前は知らないから、陛下でいいや。現在の居場所は、執務室でお仕事中だそうです。


 よし、では陛下の執務室へゴー!

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