第138話 西の端
ズワート王国を出た後も、西へ西へと移動した。いやあ、同じ方向に移動しても、色々な地域があるもんだねえ。
中にはすごく乾燥した砂漠地帯もあったし、岩山が連なってるところもあった。そういった場所は飛行船でひょいっと越えてみた。
で、飛行船や時々ほうきでずっと進んだら、とうとうこの大陸の西の端まで来たらしい。
「おお……海が目の前ー」
「ふむ。結構かかったのう」
「そうだねえ」
季節は、そろそろ春。冬も越えたから、ダガードに戻ろうかねえ。戻ったら、ローメニカさんに怒られそう……
そうそう、あの後じいちゃんの端末には、時折こちらの様子を尋ねるローメニカさんからの通信が入っていたって。
私に代わってくれれば良かったのに、って言ったら、「お主だと丸め込まれるじゃろうが」って言われたんだけど。どういう事?
大陸西の端の国は、ウィカラビア王国というそうだ。今この国では、西の海を超えた先に何があるのか、冒険の航海に乗り出そうという気運が高まっているそうだ。
西の海の先って……ラウェニア大陸じゃね? 地図で確認してみたけど、どうみてももう一つ大陸があるようには見えないよ。
あっても、小島がせいぜいじゃないかな?
「ラウェニア大陸まで辿り着いたら、あの人達どうするんだろうね?」
「普通に航海が出来るようなら、貿易でも始めるんじゃないのかのう?」
「それならいいんだけど……」
地球では、航海時代の後に植民地にする為に現地の人達と戦争したりしてたからなあ……しかも、圧倒的な兵力の差で、現地の人達を虐げ続けたんだっけ。
まあ、ラウェニア大陸の人達が簡単に負けるとは思わないけど、戦争にはなってほしくないなあ。
ウィカラビアに入って、まず訪れたのは港町ゼフ。貿易港らしく、活気がある街だ。
この港から陸伝いに南や北へ行って、商品を売ったり買ったりしてるらしいよ。
港には、今も大きな船が何艘もある。でっかいオールが何本も出てる。ガレー船っていうんだっけ? ああいうの。
なんとなく港の船を見ていたら、何やら聞こえてきた。
「おい! またか!?」
「はい。もう、水夫達は乗船を拒否しています」
「勘弁してくれ……商売は待っちゃくれないんだぞ!?」
「そうは言っても……」
「大体! 洋上の魔物なんてまやかしに決まってる!」
んん? 魔物? 思わず、じいちゃんと顔を見合わせた。
邪神を浄化した今、魔物はいなくなったはず。魔獣はいるけど、魔獣と魔物は全くの別物だ。
なのに、さっきの人ははっきり「魔物」って言ってた。いや、いないって否定しているな。どういう事?
言い合いしている人達は、なおも続けていた。
「とにかく! 明日には出港しないと間に合わないんだよ! 誰でもいいから水夫をかき集めてこい!!」
「無茶言わねえでください旦那。海の男はただでさえ迷信深いんだ。加えていくつも船が沈んでるとあっちゃあ、誰も集まりゃしませんて」
「それを集めるのがお前の仕事だろ! 明日までに必要な水夫をかき集めておけ!
「そんな……」
どうやら、海に何かが出て、そのせいで船が沈められている。おかげで出港する船の水夫が集まらない。
「……どう思う? じいちゃん」
「魔物はないじゃろ。魔獣としても、こうまで同じ場所で船を襲うというのも、おかしな話じゃないかのう」
「じゃあ、やっぱり」
「人がやっておるな」
盗賊……いや、この場合海に出るんだから海賊か。物語の海賊はロマンだけど、この海賊は迷惑なだけだなあ。
そろそろダガードに帰ろうと思うし、最後のウィカラビアでちょっとだけお節介をしようかな。
まずは一旦街から出て、一目につかないところでほうきに乗る。もちろん、籠に入れたじいちゃんも一緒。
ブランシュとノワールは一緒に飛ぶから、懐から出していつもの大きさに戻ってもらった。
さて、では空から海賊を探しますか。
海の上に出て、ひたすら進む。ナビは検索先生。最初から海賊を指定して探したら、まあ出てくる出てくる。
どうやら、沖にある島のいくつかに分散して隠れているらしい。これ、全部仲間なのかな?
よくわかんないから、片っ端から捕まえちゃえ。
「まずは一番近い島の連中から、いってみよー!」
ほうきで急襲。相手も、まさか空から謎の人物が襲撃してくるとは思っていなかっただろうなあ。
みんないい声で泣き叫んでおります。
「うああああああ!!」
「何か、何かいるうううう!!」
「お、お前ら! 落ち着け! 何かって、何がいるってい――」
叫んでる最中に、顔めがけて海水を放つ。周りは海だから、いくらでもあるよ。
海にたたき込んでもいいんだけど、それだと船を襲ったのは海賊であって魔物じゃないって証明出来ないからね。
出てきた海賊は全部海水の檻にぶち込み、島の奥に隠れてる連中も海水を流し込んで回収。よし、これでこの島は全部だな。
あ、貯め込んでるお宝発見。金貨銀貨、それに宝飾類もあるね。あ、お酒の瓶もあるよ。私、お酒は飲まないからなあ。
あ、じいちゃんが欲しいの? じゃあ持っていこうか。それと、奥の奥にはまたしても人が押し込められていた。
全員、襲われた船に乗っていた人らしいよ。全員男性。うん、長く押し込められていたせいか、凄い臭い。
ちょっと酷すぎるので、海水から真水を精製して全員にかける。そして浄化。よし、これで臭いは大丈夫。
寒いのか、全員お互いに抱き合ってブルブル震えてる。かけるの、お湯にすれば良かったかな?
とりあえず、彼等を港まで連れて行かないといけないから、海水の檻箱形バージョンでも作って連れて行こうと思ったんだけど、いいものを見つけた。
海賊達が使っていた、船である。これに捕まっていた人達を乗せて、その後ろに海水の檻に入れた海賊達をくっつければいいんじゃない?
という訳で、海賊船に捕まっていた人達を風の魔法で放り込み、その後ろに海賊入り海水の檻をくっつけて、水の魔法で港まで。
帆船だから風の魔法でもいいんだけど、海水をジェット噴射した方が速いって、知ってるからね。おかげで船の速度が凄いよ。
乗ってる人達、ちょっと声を上げてるけど、大丈夫、もうじき港に着くから。檻の方も何か騒いでるけど、あっちは海賊だから無視。
と思ったのに。
「こ、この野郎!! お、俺達を誰だと思ってやがんだ!! 泣く子も黙るヒギンダ海賊団だぞ! お、俺らの後ろにゃあなあ! お偉い貴族様がついてるんだからなあ!! だ、だから、こっから出しやがれええええ!」
何か喚いてると思ったら、泣き言かあ。でも、何か聞き逃せないワードも言ってたね。
貴族が、バックについてるんだあ? それは念入りに聞き出さないと。
このまま港に連れて行っても、こいつら全員釈放なんて事になったら、やだもん。
貴族って、本当やりたい放題だからね! ローデンでの二年間の生活で、嫌って程知ったよ!!
という訳で、ちょっとばかし船を止めて、海水の檻の海賊達に尋問タイム。とはいえ、こっちの姿は隠したまま。
だって、見られて正体ばれたら困るじゃない? ただでさえ、こっちは小娘と爺さんの組み合わせで舐められる要素ばっちりなんだからさ。
……どうせ小さいよ。けっ!
で、海賊達を水責めにしつつ尋問したところ、港町ゼフを含む一帯の領主であるギジゼイド伯爵って貴族が、彼等と手を組んでいるらしい。
ちょっと、領主が海賊と手を組んでどうするのよ……領主って、犯罪を取り締まる側じゃない。
で、どうやらギジゼイド伯爵の上には、さらに大物貴族がいるそうな。一度酔って上機嫌になった伯爵が、そんな事を漏らしたんだって。
ダメダメな伯爵だな、おい。海賊達の前で酔って、そんな重大情報漏らすなんて。
まあ、こっちはそのおかげで簡単に情報収集出来てるんですけどー。
ゼフの港はもう目と鼻の先だ。もうちょっと進めば、多分港からもこっちが見えるだろうって距離。
んー。このまま海賊達を港まで持っていっても、領主がグルじゃなあ。一旦、彼等をここに置いておいて、伯爵の方をどうにかしようか。
「じいちゃん、彼等をここに放置して、先に伯爵の方を懲らしめる?」
「こんな海のど真ん中に放置はやめんか。捕まっていた連中の心が折れるどころの騒ぎじゃないぞい」
そっか。じゃあ、やっぱり一旦港まで連れていこうか。あ、海賊達だけは檻に入れたまま、ここに放置でいいんじゃね?
「じいちゃん、海賊達だけなら、心がバッキバキに折れてもいいと思うんだ」
「そうじゃな」
よし! じいちゃんのお許しも出た事だから、船と檻を切り離して、船だけ港まで送り届けよう。
もちろん、ジェット水流を使うから、あっという間に到着するよ。
港まで運んだ船を見て、港の人達は大騒ぎだ。そりゃそうか。見るからにヤバそうな装飾てんこ盛りだもんね、この船。
でも、下りてきたのがぐったりした人達で、しかも港の人達には見知った顔だったらしく、さらに騒ぎが広がってる。
さて、この騒ぎに乗じて……と言っても、どうせ他の人に姿は見えないんだけど、私とじいちゃん、それに二匹の幻獣はギジゼイド伯爵がいる王都を目指した。
ゼフから王都までは、街道沿いに行ったら結構な距離だと思う。でも、ほうきならひとっ飛び。
単純に、空を行く方が早いし直線距離で移動出来るからね。大体、高速道路で走る車よりも速い速度で飛んでるから、時速百キロ以上は確実に出てる。
それで直線距離を飛んで小一時間だからね。馬とか馬車だったら、数日かかる距離じゃないかな。
で、その王都を上空から眺める。
「ギジゼイド伯爵の屋敷はどこかなー?」
検索先生に聞いたら、教えてくれるかな?
『王都の中央通り沿いにある、緑の屋根の屋敷です。地図ではここになります』
……教えてくれました。本当、検索先生には毎度感謝です。
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