第136話 いやあああああ!

 村に盗賊共を持ち帰ったら、何故か村人に熱烈大歓迎を受けました。


「おおおおお! ありがてえ、ありがてえ!」

「これでこの村も平和になるだ!」

「これもみな、神様のお使い様のおかげだ」


 ん? 何か今、聞き捨てならないワードが聞こえたんだけど。何? 「神様のお使い様」って。


 じいちゃんを見ると、苦い顔で首を横に振ってる。んんー?


「おお、お使い様、お戻りになっただか」


 村の奥から村長が出てきた。あれえ? 村長も、私の事を「お使い様」とか呼んでるんだけど?


「あのう……」

「ささ、話はこちらでゆっくりと。ささ」


 なんだかんだで、村長の家まで連れてこられちゃった。


「この度は、あの憎き盗賊達を討伐してくださり、まことにありがとうございます。我等一同、神のお使い様に心より感謝申し上げます」


 おおう、村長はじめたくさんの人に感謝されちゃった。そしてまた「お使い様」……


「これ、どうなってんの? じいちゃん」


 小声で隣にいるじいちゃんに確認すると、じいちゃんが困り果てた顔で答える。


「なんでも、あの連中と盗賊共には近隣の村共々酷い目に遭わされ続けていたみたいでのう。サーリのような若い娘が大の男をのしたのを見て、『あれは神が使わしたお使い様だ』と騒ぎ始めたんじゃ」


 どうやら、神というのはこの辺りの土着信仰の神様らしい。あー、まー、一応神様って存在がいる世界らしいからね、ここ。


 でも、そうか。私が神子だってバレた訳じゃないんだ。そりゃそうか。あれは南北ラウェニア大陸の人間以外知らないもんね。


 結局この夜は村でお祭り状態になって、大騒ぎだった。じいちゃんはお酒もらってご機嫌だったよ。私と一緒だと、飲む機会少ないもんね。




 翌日、引き留める村人達を何とか振り切り、村を出る。あのままずっとあそこにいるのは勘弁だよ。


「じゃあ、行こうか」

「うむ。村長の話じゃと、北西に少し大きな街があるようじゃな」


 この辺りの領主がいる街なんだって。いわゆる領都かな。そこがこの辺りが一番大きな街らしいので、行って見る事にした。


 ここからなら、飛行船よりもほうきの方がいいかな。飛行船は亜空間収納に入れてあるので、問題なし。


 ほうきを出して、じいちゃん用の籠を出して、出発! ほうきは元々ステルス機能付きなので、下から見られても大丈夫。


 飛び上がると、平地にはあちこちに森がある。その合間合間に村がある感じ。あれ、結構あるんだな、村。


 教えてもらった北西に向かってしばらく飛ぶと、あった。村よりずっと大きな場所。あれが領都だな。


 近場の森の脇に一度下りて、そこから歩いて街に入る。木製だけど頑丈そうな壁と、大きな門。その門の前に並ぶ、人や荷車、馬車の列。


 中は通りも広く、大きな建物もたくさん。デンセットよりは小ぶりだけど、十分大きな街だね。


 きょろきょろしながら歩いていたら、前方から声がかかった。


「もし、そこのあなた」

「へ? 私?」

「少し、よろしいでしょうか?」


 すっきりした身なりの、結構な美人さんだ。はて、この女性に見覚えはないんだけど……


 別に悪意がある訳でもないようなので、じいちゃんと二人、女性についていってみた。あ、二匹は小さくなって私の懐です。


 女性に連れてこられたのは、随分と大きなお屋敷……って、ここ、もしかして領主の屋敷なのでは?


「どうぞ、こちらです」


 女性は構わず進むし、ついていかないと振り返ってじーっとこっちを見るので、諦めてついていく。


 木造のお屋敷は、どっしりとした構え。この辺りは木材が豊富そうだから、建物も木造なのかな?


 デンセットは石切場が遠くない場所にあるから、街中の建物は石造りが多かったっけ。


 そのお屋敷の中を進んでいって、扉の前まで連れてこられた。


「こちらでお待ちください」


 部屋の中は、壁掛けやラグなど、凝った染めが施された布製品で彩られていて、華やかな感じ。木製の椅子の手すりには細かな彫りが施されている。


 すっごく、お金かかってそう。やっぱり、領主の屋敷だよねえ?


「じいちゃん……」

「お主、また何かやらかしたのか?」

「覚えがないんですけど」


 この辺りでやった事と言えば、チンピラを縛り上げたのと盗賊を壊滅させたくらいだ。


 もしかして、盗賊関連で報償金が出るとか? デンセットでは領主様から直々に報償金をもらったし。


 でも、昨日の今日よ? あの村、ここから結構離れてるのに。馬を飛ばして一日くらいかかるかなあ? 道が結構曲がりくねっていたから。


 私達は空を一直線だからね。ショートカット出来る分、早いんだ。


 ここに呼ばれた理由をうんうん唸って考えていたら、扉が開いた。そこに立っている女性には、何だか見覚えが……


「あ!」


 盗賊に捕まっていた女性だ! あの時、馬車を貸してほしいって言った人!


「こんなに早く再会出来るとは、思ってもみませんでしたわ!」


 感激する女性の後ろには、先程ここに案内してくれた女性も立っている。


「あの時は名乗りもせず、失礼しました。私、このコノソン領の領主の娘、ビザリーナと申します。こちらはあの時共に助け出していただいた侍女のキーア。私共々、あなた様に助けていただきました。本当に、ありがとうございました」


 二人して、深々と礼をされてしまった。


「い、いえ、あの、あれは成り行きといいますか、何といいますか……」

「それでも! 私と我が領の民を救っていただいた事、心より感謝いたします」


 ビザリーナによると、あの盗賊達はコノソン領を荒らし回っていた連中で、近々領軍を差し向けようという話になっていたらしい。


 なのに、領主の娘である彼女が攫われてしまったので、領軍も二の足を踏んでいたところだったんだとか。


「村の視察に赴いたところ、帰り道を盗賊に襲われたんです。護衛はみな殺され、私とこのキーアが攫われました」


 どれくらいあの洞窟に閉じ込められていたんだろう。あの時はちょっと汚れてくたびれた感じだったけど、今見るとこの人凄い綺麗。


 栗色の波打つ髪、チョコレート色の瞳はぱっちり大きく、顔立ちも彫りが深すぎない感じで整っている。


 とすると、キーアさんに見覚えがなかったのは、今より汚れてたからかな? とても本人達には言えないけど。


 ビザリーナさんに、お礼もかねて家に逗留してほしいと言われたけど、多分、街の外にテントを張った方が過ごしやすいと思う……


 なにせほら、この街もデンセットとかと一緒で、臭いが……ね。


「では、何か代わりにお礼を……」

「いえいえ、本当に、ついでのようなものですから」


 これ、結構酷い言い方だよなあ。人の命をついでとか。でも、あまり感謝とか言われるのは違う気がするし……


 ビザリーナさんとお互いに言い合っていると、脇からキーアさんが提案してきた。


「失礼ですが、サーリさん達は余所からいらした方達ですか?」

「え? ええ、そうですけど」

「でしたら、この辺りの衣装をお持ちになってはいかがでしょう?」

「衣装……?」


 そういえば、二人とも仕立ては違うけど、似たデザインの服を着ている。


「私共が着ておりますのは、この辺りの伝統の衣装なのです。よろしければ、そちらを何着かご用意いたしますので、お持ちください」

「そうね! 服ならば着替えにも使えるもの」

「あー、確かに」


 礼として、下手に金銭を持ち出されるよりも、そういう日用品のようなものの方がこっちの心も痛まない。キーアさん、凄いな。


「それでは、早速採寸をお願いしましょう。当屋敷に出入りの仕立屋ならば、多少の無理はききます。二、三日、お時間をちょうだいできますか?」

「はい、大丈夫です」

「では、その間お嬢様が仰っていたように、当屋敷にご逗留ください」


 あ、やられた。キーアさん、本当に優秀だなー。ビザリーナさんが、すんごいいい笑顔ですよ……とほほ。


 その後、本当にお屋敷の二部屋を貸してくれて、仕立屋も呼んでくれた。じいちゃんも、伝統衣装を仕立ててもらえるらしいよ?


 よし、じいちゃん。一緒にこの地方の衣装を着よう! ……何で目をそらすのよ。


 夕飯は、大きなテーブルに乗りきらない程の量の料理。大味かなと思ったら、この地方の香草をふんだんにつかった奥深い味。


 一種類だけじゃなくて、幾種類も使い分けるんだって。お肉やお魚、野菜料理にも使われていて、すっごくおいしい。


 おいしすぎて、食べ過ぎました。げふ。




 翌日は街中の散策から。ビザリーナさんが案内する! と息巻いていたけど、キーアさんに窘められて敗退。案内はキーアさんが請け負ってくれた。


「コノソンの領都カドスは、東の果てと呼ばれるコノソン領の中心地です。周辺の村々とは街道で繋がっており、主な産業は林業と果樹生産です」


 何でも、コノソン産のフルーツは有名らしい。そういえば、夕べの食卓にもフルーツがたくさん出てたっけ。


 生で食べるだけでなく、ソースにしてお肉や魚に使ったり、幾種類かのフルーツを煮てスイーツにしたりジャムにしたり。


 シロップに漬けて保存食にしたりするんだって。あー、いいねえフルーツ。この辺りだと、低木になるものが多いそうな。ベリー系かな?


 ……そういえば、そろそろドラゴンのところに果実を届けに行かないとなー。待ってるだろうし。


 この街ならではのものとして、常設の芝居小屋があった。地元の人だけでなく、商用で来た商人なんかもいい客になるらしい。


 デンセットでも芝居はあったけど、あれは旅の一座が中央広場に仮設の芝居小屋を建てるものだったなあ。


「今かかっているのは、王都で人気の恋物語だそうですよ」

「へー」

「何でも、遠い異国の話を元にしたそうです」

「そうなんだー」

「異界より降り立った神の御使い様と、救国の英雄たる王子のお話です」

「へー……え?」


 気のせいかな? どこかで聞いた事があるような話なんですけど?


 キーアさんの話によると、脚本を書いたのは東の大陸から来た人物らしい。え……もしかして、南ラウェニア大陸とここって、行き来出来るの?


『出来ます。南ラウェニア大陸の最南端から、西へ島伝いにこちらの大陸に渡れるようです』


 マジかー……てか検索先生、今回はお早い回答ですね、ありがとうございます。


 じゃあ、その劇ってやっぱり……


「邪神を封印した神子と、召喚国の王子の話じゃのう」


 私がモデルかよおおおおおおお! しかもとっくに別れてるのにいいいい! 離婚の原因は王子側の不倫ですからね!


 まあ、王侯貴族の世界では、不倫は日常茶飯事だそうですが。あの場でも、誰もヘデックを責めてなかったしね。


 逆に、この程度で騒ぐなんて、って私が白い目で見られたよ! あー、思い出す度にムカつく!!


「サーリさんも、芝居をご覧になりますか?」

「いえ! 結構です」

「そ、そうですか……」


 しまった。つい理不尽な事を思い出したものだから、キーアさんに強く当たっちゃった……


「すみません、キーアさん。ちょっと、嫌な事を思い出してしまったもので……」

「いえ。こちらこそ。何か気に障る事をしてしまったようです。申し訳ありません

「いえ! キーアさんのせいじゃないです。本当です」


 こんな事で他人に八つ当たりするなんて。まだまだだなあ。


 ちょっとギクシャクした空気のまま、屋敷に到着。待ち構えていたビザリーナさんに連れられて、お庭でお茶です。


 出されたスイーツは、フルーツを多く使ったものばかりでとってもおいしい。あー、イライラも吹き飛びますわー。


 その後は衣装が出来上がってくるまで、ビザリーナさんの視察に付き合って村々を回ったり、果樹園にお邪魔して収穫を手伝ってお駄賃代わりにフルーツをもらったり、厨房でフルーツのお菓子の作り方を教わったりしていた。


「じゃあ、王都はここから大分南にいったところにあるんですね」

「ええ。コノソン領は、王国でも北に位置するんです。ここから北には深い山が連なっていて、その向こうがどうなっているのかは、誰も知らないそうです」


 そうなんだー。飛行船で空から確認してみようかな? 北には行かない予定だから、確認するだけだけど。


 この国の王都はキジクスといって、カドスからは南西に位置しているそうな。


 ここで王都の名を聞いたという事は、次はその王都かな? あ、今更だけど、この国の名前はズワート王国というそう。




 衣装が仕立て上がって、早速じいちゃんと二人で試着。おお、何かこれ、可愛い。東ヨーロッパの民族衣装っぽいよ。


「ほう、こりゃ肌触りがいいわい」


 じいちゃんも気に入ったらしい。衣装は全部で六着。こんなにもらっていいのかな?


「サーリさんが助けてくれた女性の数を考えれば、この程度安いものですよ」


 そっか。ビザリーナさんやキーアさんだけでなく、他にもたくさんの女性が捕まっていたんだっけ。


 あのままだったら、彼女達は闇から闇へ売られてたそうだ。盗賊を潰すのも大事だけど、売買ルートがあるのが一番の問題なんじゃないかな?


「確かにそうですわね。わかってはいるのですけど……」


 ビザリーナさん一人じゃ、どうしようもないよね。こういうのって、国で対処しないと駄目なんじゃないかな。


 色々思うところのあるコノソン領を後にして、目指せ王都キジクス。

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