第二章 冬真っ盛り

第134話 新しい場所

 空の旅は快適だけど、十日以上も海の上ばかり行くのは飽きる。


「まだ大陸は見えないのかなあ……」

「速度を上げとらんからのう」


 そーだよねえ。急ぐ旅じゃないしーと思って、ゆっくり飛んでるんだった。


 窓の外には、どこまでも続く大海原があるばかり。島影一つ見えないよ。


「いつまで海の上なのかなー」

「ピイイ」

「ナノカナー」


 ブランシュとノワールが付き合ってくれる。優しいね。


 あ! そうそう。空の旅が始まってすぐ、凄く嬉しい事がありました!


 なんと! ブランシュが飛ぶようになったんです!


 今もパタパタと私の顔の辺りを飛び回ってる。そういえば、少し大きくなったのかな?


 ノワールの方は大分大きくなって……るんだけど、ゴンドラの中なのでサイズは前のままにしてもらってる。


 飛ぶ練習も、今はろくに出来ていないからなあ。それもあって、早く大地の上に下りたいんだけど。


「ねえ、じいちゃん。少しスピードアップしようか?」

「すぴーどあっぷ……とは何じゃ?」

「速度を上げる事」

「いいんじゃないかい?」


 いいんだ? ああ、まあ今の速度に決めたのも、私だっけ。


 んじゃあ、ちょっとばかしスピードアップ! と言っても、見える景色にそう代わりはない……


「あった!」

「な、何じゃ?」

「ピイイ?」

「何ガアッタノ?」


 見つけた! 土地だ!!


「陸地があった!」

「おお、とうとう別の大陸に到着したのか?」


 地図で確認! うん、確かに陸地だ。しかも小島とかではなく、ちゃんと大陸だよ。


 あ、でも突き出た形をしてるから、半島かな? ともかく、その突端が見えてきてるらしい。


 緑はある。川らしきものも見えた。あ、何か動物もいる。……魔獣じゃ、ないよね? ま、魔獣でも問題ないけど。


 広い場所を目指して、着陸。下りる前に、外の気温を調べてみた。大体二十四度くらい。湿度は五十五パーセント。よし、過ごしやすそうだ。


 みんなで下りてみる。当たり前だけど、ダガードとは大分違う。空気から違うからね。


 もちろん、ローデンとも違う。思わず深呼吸。緑の匂いが濃い。


「ふむ、こりゃまたラウェニアのどの国とも違う様子じゃの」

「だねえ」


 経度はもちろん、緯度も違う。ラウェニア大陸で行くと、多分南北の中間にある

「くびれ」より少し北くらいかな?


 一度地図で確認してみたら、当たってた。


「ピイイ、ピイイイ」

「飛ンデキテモイイ?」


 どうやら、ブランシュとノワールも久しぶりの陸地に興奮しているらしい。


「あんまり遠くに行かないようにね」

「ピイ」

「ハーイ」


 いいお返事の後、二匹で飛んでいった。契約しているので、二匹のおおよその居場所はわかるから、何かあったらほうきで駆けつければいいや。


 二匹が空のお散歩に行ってる間に、こっちは周辺を調べておこう。安全そうなら、第一拠点としてここに小さな家を建ててもいいかも。


 別に飛行船の中でも暮らせるけど、やっぱり大地に足を付けておきたい。


 という訳で、久々に探索探索う。検索先生と連動して探索の範囲を広げていくと、どうやら近場に危険な動物や魔獣は存在しない様子。


 そして、人もいないらしい。……まあ、そう簡単に他の国は見つからないよねー。


 大航海時代の人達も、こんな思いだったんだろうか?


 まあ、あの辺りは裏側に結構ドロドロのあれこれがあったりするって、世界史の先生が嬉しそうに教えてくれたけど。


「じいちゃん、この辺りに危ない動物とかはいないみたいだから、第一拠点を作ろうと思うんだけど、いい?」

「いいんでないかい? どうせ冬の間は砦にゃ戻らんのじゃろ?」

「うん。寒いのは、やっぱ嫌だし」


 北の冬なんて、想像も出来ないよ。濡れたタオルがあっという間に凍り付く世界なんだろうか?




 飛行船を着陸させた場所を中心に、まずは外壁を作る。危険動物はいないっていうけど、何があるかわからない。


 だから、高さと幅と強度はちゃんとしたものを作らないとね。


「いやあ、ドラゴンの島で鱗や牙や爪をたくさんもらっておいて良かったー」


 全部素材として使えるからね。しかも、下位種のドラゴン素材に上位種の素材をほんのちょっぴり足すだけで、強度や扱いやすさが全く違う。


 比率は大体下位種九割八分で上位種が二分。これで下位種のドラゴンコンクリートよりもより強固で使いやすいドラゴンコンクリートが出来上がる。


 それを使って、外壁をちょちょいと作る。高さは十メートルもあればいいかな。幅は五メートルくらいで。


 壁というより、もうちょっとした建物だよね、これ。まあいいや。強度大事。


 さて、壁が出来たので、中の建物に移る。石材もまだまだあるし、つなぎのコンクリートは外壁の余りで。


 拠点だから余計な設備はなし。キッチンとバストイレ、それにじいちゃんと私の寝室。リビングダイニングと二間もあればいいかな?


 ブランシュとノワールは私と一緒に寝るので部屋はなし。お風呂場は二匹と一緒に入れるように、少し大きめ。


 テントでも良かったかもしれないけど、なんとなくあれは「旅の最中の寝床」って感じだからなあ。


 やっぱり、拠点ならちゃんと壁と家が欲しいから。全部自分で作れるしね。魔法最高。


 全部作り終わったあたりで、二匹が戻ってきた。思う存分飛んできたらしく、満足そうな顔をしている。


「楽しかった?」

「ピイ!」

「ウン!」


 良かったね。私が拠点を作ってる間に、じいちゃんがふらっと森で獲物を狩ってきてくれたよ。何か、でっかい鳥。ダチョウより大きいんじゃない?


 あ、これ、じいちゃんが森に行く前に渡した、検索先生一押しの獲物リストにあった鳥だ。


 フラフラ鳥といって、すっごく臆病で逃げ足の速い鳥なんだとか。ダチョウなんかと一緒で、足が発達したせいか飛べない鳥らしいよ。


 そしてここ重要。フラフラ鳥の肉はおいしい。大事な事なので二度言います。フラフラ鳥はおいしい。


「おお、じいちゃん、でかい獲物だね?」

「うむ。お主のくれた獲物一覧があったからのう。おかげで調べる手間が省けるわい」


 魔獣や動物の中には、食用に向かないのも結構いるもんね。おいしいかおいしくないかは、大事。すっごく大事。




 フラフラ鳥は、亜空間収納に一旦いれてそこで解体、肉となんと素材まで採れた。羽根とくちばし、それと爪と内臓の一部だって。


 お肉はおいしくいただきました。今日はシンプルにソテー。


「んまー!」

「ふむ、確かにうまいのう」

「ピイピイ」

「オイシー」


 ちなみに、ブランシュもノワールも、人と同じものを食べて大丈夫だそうな。生肉でも平気らしいんだけど、料理した方が二匹とも好きなんだって。


 今日のソテーは、塩こしょうしてオーブンで焼いただけなんだけどねー。簡単簡単。


 温野菜も一緒にオーブンで焼いたから、野菜のうま味も出てるのかなー。


 そんなこんなで、新しい場所での一日は終わりー。明日はどこへ行こうかな?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る