第128話 寒いから帰りません
とりあえず、挨拶もなしに長期間留守にするのもなあ、と思って、迎撃システムの護くんの一つに手紙を託してデンセットへ送った。
ついでに、ローメニカさんだけが使えるよう調整した連絡用スマホ型通信機も持たせている。
これで何か問題が起こったら、すぐに砦に戻れるようにした。だって、留守の間にまた横取りしようとする連中がいたら、やじゃない?
まあ、誰も侵入出来ないようにセキュリティはガチガチにしておいたけど。多分、あそこに忍び込んだら命はないと思う……
あ、もし侵入者が命を落としても、護くん達がきちんと遺体を排除してくれる事になっているので、砦が汚れる事はないんだ。便利便利。
そうして、私とじいちゃんは空の上の人となった。
「いやあ、快適快適」
「ふぉっふぉっふぉっ」
雲のない空を飛んでいるせいか、日差しが気持ちいいなあ。下は海ばかりなので、景色的にはちょっと……だけど。
現在、飛行船は西南西に向かって飛んでいる。こっちの方に大陸がありそうだって、検索先生からのお報せだ。
ラウェニア大陸がアメリカ大陸っぽいから、これから行くのはユーラシアくらいの大きさがあるのかなあ?
どんな食べ物があるのか、楽しみ。
ロビーの座り心地のいい椅子でまったりしていたら、じいちゃんの懐で何やら音がする。
ああ、ローメニカさんに送ったスマホ型通信機の着信音かー。じいちゃんに言われて、ローメニカさんしか使えない仕様にしたっけ。
しかも、周囲に銀髪陛下や領主様なんかがいたら、起動出来ないようにもなっている。
それにしても、なんでじいちゃんはそんな事を言ってきたんだろう?
「おお、ローメニカから初の着信じゃな。では、ちょっと通話してくるぞい」
「いってらー」
何を話すのやら。
船の航行速度はそこまで上げていない。行き先を決めていない旅だし、食料や水に困ったら、ポイント間移動を使って砦に戻ればいいから。
便利かつ楽な旅だよねえ。この世界での旅といえば、命がけなのに。街から街へ移動するにも、魔獣や盗賊が出るから。
貴族なんかは、護衛の兵士を自前で用意出来るので、長い馬車行列を作って移動するんだ。私も、何度かローデンで経験したなあ。
あの時も、実はほうきで移動すればもっと早いのに、とか思ってたっけ。
「実はあの頃から、もう破綻していたんだろうなあ……」
気づかないうちに、無理してたんだと、今ならわかる。あの時はわかんなかったけどねー。
まあ、今はもうどうでもいいや。別れた相手だし、
しばらくすると、じいちゃんが戻ってきた。
「ローメニカさん、何だって?」
「やはり黙って出てきた事に関して、心配しているようじゃったの」
「そっかー」
ちゃんと手紙は護くんに託したのになあ。あの時は一刻も早く出立したかったからねー。
「とりあえず、春までには戻ると伝えておいたぞい」
「本当? ありがとー」
北の国の本格的な冬も体験してみようかなと思ったけど、私寒がりなんだよね。雪がどかっと降ったら、多分耐えられない。
ローデンは冬でも雪は降らなかったんだよなあ。それなりに寒かったけど。あれだけは助かった。
なので、行き先はなるべく南の方。避寒地になりそうな土地。気に入れば、冬の間そっちにいられるように、家を作ってもいいなあ。
ポイントを打っておけばいつでも行き来出来るし。
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