第126話 悪くない。悪くないったら悪くない。

 人が丹精込めて直した砦を、横取りしようなんて。神罰ものだよ! というか、私が罰をあててやる!!


「へーか! ウーズベル潰していいですか? いいですよね? ありがとうございます行ってきます!」

「待て待て待て! 一体何がどうしてそうなるんだ!?」


 ちぇー。押し切ろうとしたら全員に羽交い締めにされて止められちゃったよ。いいじゃん、どうせ謀反人なんでしょ? ウーズベル伯って。


 その辺りをブチブチ文句言ってたら、まだ証拠が揃わないと領主様に言われてしまった。


「でも、武装した連中が隣とは別の領に無断で入ってきてるんですよ? それだけで十分証拠ならないんですか?」

「それだと我がコーキアン領とウーズベル領の争いに過ぎん。謀反人として罰する訳にはいかんのだよ」

「じゃあ、コーキアン領の住民として、実力で抗議してきます!」

「だから待ちなさい!」


 えー? これも駄目なのー? 私以外の人達はみんな、溜息を吐いている。そんな中、ローメニカさんが提案した。


「……考えようによっては、サーリの言い分も正しいかもしれません」

「ローメニカ、お前まで――」

「あちらがサーリに嫌がらせをしてきているのですから、こちらが仕返したところで問題はないのではないでしょうか? ただし、ウーズベル伯本人にではなく、兵団の方へ、です」


 彼女が言うには、私は庶民で、兵団の動き方など知るはずがない。


 ただ自分の砦に訳のわからない連中が押しかけてきて「自分達はウーズベルの兵団の者だ」と言われて嫌がらせをされている。


 だから、仕返しをして二度と兵団がおかしな真似をしないようにしたとすればいい。


「詭弁ですけど、最初に力押しをしたのは向こうですからね。それでウーズベル伯本人が出てくれば、今度はジンド様ないし陛下がお出になられればよいかと」

「ううむ……」

「こちらには牢屋に押し込めた生き証人がいる訳ですから、向こうとしても言い逃れは出来ないのでは? 何せ兵団の旗まで掲げているのですもの」


 それに関しては、向こうの……ウーズベル伯だっけ? が「自分は知らない」と言っちゃえば終わるのでは? と思ったら、旗が重要なんだって。


 ローメニカさんが教えてくれた事によると、家の紋章の旗や兵団の旗というのは、所属を知らせる大事なアイテムで、勝手に掲げる事は駄目らしい。


 つまり、今回ウーズベルの兵団の旗を掲げていた彼等は、所属と命令系統をその旗で示したという事になるそうな。


 ちなみに、旗も押収物として渡してあります。あの旗に、そんな意味があったとは。


 その場で軽く話し合いが持たれ、結局ローメニカさんの案が採用された。私としては、鬱陶しい相手に仕返しが出来れば、何でもいいよ。




 さて、やってきましたウーズベル領。眼下にあるのがウーズベル伯の城らしいよ。


 で、その城のある領都の壁の外には、色々な旗を掲げた兵団が野営していた。


 その様子を、迎撃システムに組み込んでいるカメラを通して、組合長室にいる人達にリアルタイムで見せている。


「もしもーし、モニターの様子はどうですかー?」

『好調よ。……それにしても、参ったわね。こんなに地方領主が集まってるなんて……』

『思ったより大がかりな謀反のようだな』

『陛下、何をのんきな事を……』


 組合長室ではローメニカさん、銀髪陛下、領主様が騒いでいる。何でも、野営している兵団の掲げる旗が、周辺領主の旗らしい。


 つまり、ここに集まっている人達は全部、打倒銀髪陛下に燃えている訳か。よし。


「あー、もしもーし。こちらから提案でーす」

『……嫌な予感がするが、言ってみろ』


 酷いな、銀髪陛下。せっかく助けてあげようと思ったのにー。まあいいや。


「今下にいる連中、全員風で吹き飛ばしてもいい? 北の海辺りに」

『出来るのか!?』

「出来ますよー。そうすれば、謀反も出来なくなるんじゃないかなって」


 返事がない。どうしたんだろう?


 しばらくして、領主様から返答があった。


『サーリよ、彼等の武器と糧食……食料だな。それらを奪う事は出来るか?』

「えーと……出来ます!」


 武器はわかるけど、食料がどれかちょっとわかりにくかったんだ。でも、ちゃんと発見した。検索先生、マジ優秀!


 という訳で、上空から全ての武器と食料を奪い、ついでに領都の兵団の武器と食料も奪ってみた。あれ? これ、泥棒だよね?


 ……まーいっかー。領主様から頼まれたんだから、私が悪いんじゃない。うん、私悪くない。

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