第124話 大変なんだから!

 じいちゃんにみっちり基礎の講義をされて、ぐったり気味の神子です。あんなに張り切らなくてもいいのに……


「お主は目を離すと何をしでかすかわからんからな」


 酷くない? ってか酷くない? 大事な事なので二回言ったよ! でもじいちゃんはどこ吹く風だし。納得いかん。


 結局この日は作業に戻る事叶わず。残念。しかも夕飯後も基礎練習が続くし。もうやだー。




 翌日も、銀髪陛下とローメニカさんは残留決定。


「……何だ? その嫌そうな顔は」

「え? いや、そういう訳では……」


 銀髪陛下にじろりと睨まれた。やべ、顔に出てたみたい。隣でじいちゃんは呆れた顔をしてるし、ローメニカさんは微苦笑してる。


「そんなに俺がここに残るのが嫌か?」

「えー? 嫌かどうかと言われれば嫌ですけどー」

「何だと?」

「え? だって、魔力全開で使えないじゃないですか!」

「そんなくだらん理由で嫌がる奴がいるか!」

「くだらなくないですよ! 修繕には大事な事なんです!」


 何でこう、銀髪陛下はいちいち言い合いに持ち込むかなあ? 朝食後もぷりぷりした様子で角塔に残ってるし。


 やる事ないんだから、来客用棟に戻ればいいのになあ。


 そして私は今日もじいちゃんの講義だそうな。場所はここ角塔のダイニングキッチン。うう、またあれか……


「今日は夕べに引き続き魔力の制御の基礎じゃ」

「制御……」


 私が一番苦手なやつだ。細かい作業は嫌いなんだよう。私の前に置かれたのは、ガラスのボールの中に入った複数の針。


 これをじいちゃんの言う数だけボール内で立たせなくてはならない。全部いっぺんに立てるなら楽なんだけど、一本ずつってのがなあ。


 手のひらの上にボールを乗せて、中のピンを立てていく。うう、手が震える。


「それは何だ?」

「集中してるんだから! 横から余計な声出さないの!」

「あ、ああ……」


 もう! これ本当に難しいんだからね! ボール三十個くらい、中身全部立てていいなら楽なのに。


 一本ずつだと、本当に凄く集中しないといけないんだから。


「あれは魔力の制御の練習ですじゃ。ああして、中のピンを立てていくんですじゃよ」

「ほほう」

「あれ、魔力を持っている人なら誰でも出来るんですか?」

「出来なくてはいかんのじゃがなあ……最近の若いもんは、基礎をおろそかにしすぎじゃ」


 なーんか三人があれこれ言っているのが聞こえるんですけどー。こっちの集中が切れるからやめてくれないかしらー。


 まだ壁修繕したい部分が残ってるのにー。


 心の中は涙で一杯だい! そんな私の耳に、ベルの音が響いた。


「侵入者アリ、侵入者アリ。コレヨリ迎撃ニ入リマス」


 あ、迎撃システムからのお知らせだ。砦に私達がいる時は、敵を見つけるとこうしてお報せしてくれるように設定してる。


 それと同時に、モニターに敵の姿が映し出されるのだ。


「あ、あれ」


 どっかで見た覚えのある旗を掲げている。


「……ウーズベルの連中だな」

「またですか?」

「懲りない奴らだのう」


 本当にね。さて、今度はどうしようか。




 結局、銀髪陛下の指示の下、今回来た人達全員捕まえました。んで、中でも一番上等そうな鎧を着込んだ人を砦の角塔まで連れてきてる。


「き、貴様ら! 我々を誰だと――」

「ウーズベル伯の手の者だろう? それがどうした?」

「へ、陛下……?」


 銀髪陛下が奥の扉から姿を現したら、鎧の人が固まっちゃった。陛下の顔、知ってたんだね。


「さて、お前達には色々と聞きたい事もある。デンセットにいるコーキアン辺境伯の元まで、一緒にいってもらおうか?」


 鎧の人がぶるぶる震えているけど、銀髪陛下はお構いなしにローメニカさんに何やら指示を出している。大変だなあ、ローメニカさん。


「では、デンセットへ行くぞ」

「あ、行ってらっしゃい」

「お前もだ!」


 えー? 何でよー?

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