第123話 言い合い

「申し訳ありませんでしたああ!」


 銀髪陛下とローメニカさんを前にして、思いっきり頭を下げる。九十度きっかり体を折って。


 場所は来客用棟のロビー。一階部分を全て使ってどーんと広く作ってある空間で、ソファやらローテーブルやらを設えている。そこで謝罪してます。


 考えたら、銀髪陛下はこの国の王様だから、下手な事をすれば首が飛ぶんだった。物理的に。そうなる前に逃げるけど。


 下げた頭の上に、何やら軽い溜息が聞こえる。銀髪陛下かな? ローメニカさんかな?


「頭を上げよ」

「は、はい!」


 銀髪陛下の言葉に、下げてた頭を勢いよく上げる。陛下は仁王立ちで腕を組んでいた。


「本来なら、王たる俺に対する攻撃とみなし、お前に国家反逆罪を適用するところだが……」

「うえ」


 まあ、そうなるよねえ……。王様ってのは、それだけ大事な存在だし偉い人なんだから。


 ここで不敬罪でなく反逆罪が適用されるのは、国王を攻撃する事は国に攻撃するのと同じだからなんだって。朕は国家なり、かな?


 銀髪陛下の言葉の続きを待つと、彼は片目でじろりとこちらを見た。


「今日のところは、特別に不問とする」

「ありがとうございます!」

「まあ、無理を言ってここにいるのは俺の我が儘だからな」


 そういえばそうだよね。うんうんと頷いていたら、ローメニカさんに視線だけで「めっ」って怒られた。ごめんなさい反省します。


「ご老体に聞いたが、俺が魔力酔いを起こす程の魔力を流したそうだな? という事は、それだけの魔力を持っているという事になるのだが」

「えーと……じいちゃんとの修業に、魔力を増やすものもありましたので」


 これは本当。やり方はとっても簡単。限界まで魔力を使ってその後自然に回復するまで待つのを繰り返すだけ。


 ただし、限界まで魔力を使うと枯渇症という症状が出て大変なのだ。目は回るし気持ち悪いし頭痛も起こす。


 よくあの修業を耐え抜いたよなあ、自分。思わず遠い目になっちゃう。


「そういえば、サーリの魔力は三百越えでした!」

「……本当か?」


 ローメニカさんの言葉に、そういえばそんな計測したなあと思い出す。あの時も驚かれたっけ。ちょうど今の銀髪陛下みたいに。


 魔力三百越えは、珍しいらしい。あ、じいちゃんも似たような数値だったよ。その場で驚かれてたよね。


 銀髪陛下が何か考え込んでる。また怪しい事じゃないでしょうね?


「ご老体、二人を国で丸抱えするのに、国家予算二年分でどうだ?」

「桁が足りませんな」

「け、桁!?」


 じいちゃん……また随分と大きく出て……。でも何も言わない。多分この流れになったのは、私が原因だから。


 銀髪陛下は何やら考え込んでしまってる。結果出てきた答えがこちら。


「爵位と領地を与えよう! それと国家予算三年分だ」

「身分も領地もいりませんぞ。この砦ですら、広いくらいですからのう」

「ぐぬぬ……で、では金銀財宝でどうだ!?」

「はて、この間知り合った御仁から、いくらでも好きに持って行けと、金やら銀やら宝石やらを見せられましたなあ」


 ドラゴンだな? ドラゴンの事だな? 結局もらわずに帰ってきたけど、最後まで残念そうにしてたもんな。


 明日にでも果実を届けに行くつもりだから、その時また押しつけられそうになったら、どうしよう……断る一択だけど。


「では王都の屋敷でどうだ!」

「何やら報酬が下がっておりますぞ?」

「珍しい魔道具では!?」

「魔道具は自作に限りますなあ」

「船ではどうだ!」

「はて? その船は空は飛びますかな? 飛ばない? では駄目ですぞ」

「ぐぬぬ……」


 またしても銀髪陛下の負けらしい。いい加減、諦めればいいのに。じいちゃんの方は完全にお遊びモードだよ、あれ。


 結局じいちゃんに言い負かされた銀髪陛下は、ぐったりした様子で部屋に戻っていった。


 さーて、では作業の続きを……


「待てサーリ、お主はこれから基礎のやり直しじゃ!」


 マジでー!?

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