第120話 何やら怪しくなってきました

 そもそも、隣の領からあれだけの数の兵士がよくコーキアン領に入れたよねって話。


 それを夕飯時に話題に出したら、ローメニカさんはもちろんの事、銀髪陛下も何やら考え込んでしまった。


「言われてみればそうよね……先にあれだけの人数の隣領の兵士が捕まったからか、つい見逃していたわ」


 いや、見逃しちゃ駄目でしょ。領境って、別に検問所とかはないけど、途中で街道が街の側とか通ってるのに。


 さすがに領都の側の街道は使わなかっただろうけどさ。


「誰にも見とがめられずに、あれだけの数の人間が移動出来る方法がある、という訳か……」

「魔法士がおるんじゃろうて」


 銀髪陛下の言葉に、じいちゃんが呟く。まあ、普通に考えたらそうだよねー。じいちゃんも私も、そのくらいの事は出来るし。


 それに、幻影特化の魔法士なら、割と誰でも出来るんじゃないかな?


「幻影特化? 魔法士には、種類があるという事か?」

「え? いや、そうじゃなくて……」

「得意分野があるという事じゃて」

「そう! それ!」


 じいちゃん、ナイスアシスト! 銀髪陛下はまた考え込んじゃった。国王だから、色々あるんだろうなあ。


 ローデンでも、やっぱり国王陛下は常に多忙だったし。その割には、浮気する時間は捻出してたけど。王妃陛下がいつも茶会でぼやいていたっけ。


 他の王子妃の前では取り繕うのに、私の前だと本性出しまくってたんだよなあ、あの人。今ではいい思い出……って、よくないよくない。


 首をぶんぶん振って考えを追い出そうとしたら、銀髪陛下に変な目で見られた。じいちゃんとローメニカさんは慣れてる様子。それも何か嫌。


「得意分野とはいえ、あれだけの人数の移動を誤魔化せるものなのか?」

「ふむ。魔法士の技量によりますなあ」


 だよねー。気になるのは、北ラウェニアにそこまでの腕の魔法士がいるのかってとこ。南なら多くはないけど、少なくない数いるけど。


「隣の領主が、どこかから引っ張ってきたとか?」

「何をだ?」

「だから、誤魔化せる魔法士を」


 銀髪陛下の頭の上に、クエスチョンマークがたくさん飛んでるのが見えそう。そんなおかしな事を言ったっけ?


 首を傾げる私を横目で見て、じいちゃんが捕捉した。


「大人数を幻影魔法で隠せる魔法士を、ウーズベルの領主殿はどこかから連れてきたのではないか、という話ですな」


 うん、だからそう言ったよね? じいちゃんを見ても、ノーリアクション。ローメニカさんを見たら、愛想笑いをされた。何で?


 銀髪陛下は何やら沈痛な面持ちでいるし。


「そういう事か……ない話ではない。二人に聞きたい。現在ウーズベルがやっているような仕事を引き受けるなら、いくらで受ける?」


 じいちゃんと視線を交わす。ここはじいちゃんに譲ろう。私じゃ相場はわからないから。


「そうですなあ。期間にもよりますが、最低でも一千万ブールからですかのう」

「一千万!?」


 驚いたのは私だけらしい。銀髪陛下は何やら考え込んでいるし、ローメニカさんは納得している。


 えー? 魔法士って、そんなに高いの?


「それに加え、北大陸に来るのですから、更に上乗せすると思われますぞ」

「……倍額か?」

「もしくは三倍」


 えー……二千万、さらに三千万? そういえば、私も色々お金もらったなあ……


 あれって、魔法士なら当たり前の金額なの? いや、私の場合は依頼を受けてその報酬だったり、盗賊団捕まえてその報償金だったりしたけど。


「北大陸には、まともな魔法士は残っておりますまい。少々腕があれば、先程の金額で雇い入れる事は出来ましょうなあ」

「お前達二人なら、いくらだ?」


 銀髪陛下が、真面目な顔でじいちゃんと対峙してる。え? これもしかして、危ない展開?

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