第119話 一難去って
ウーズベルの人達が戻っていったから、銀髪陛下も城に戻るんだと思ったのに……
「何でまだいるんですか?」
「ウーズベルの兵団が、また来るかもしれないだろう?」
「いやいや、あの連中、何も出来なかったでしょ? 警護はいりませんってば」
「次はわからないじゃないか」
ああ言えばこう言う。銀髪陛下は性格悪いなあもう。
げんなりしていたら、銀髪陛下の視線がじいちゃんに固定されている。見とれる程の髭かなあ?
と思ったら、違った。
「バム……と言ったな? どこかで、会った事はなかったか?」
「はて。この年になると、色々と忘れやすくて困りますわい」
ほっほっほと笑うじいちゃんを、思わず半眼で見る。何が忘れやすい、よ。こっちの昔の間違いは全部憶えているくせに。
たまにチクチク言ってくるんだよねえ。本当、食えないじいさんだわ。
銀髪陛下の方は、納得出来ていない様子だけど、じいちゃんにああ言われちゃったから、それ以上何も言えないみたい。
老人に対して、記憶力を鍛えろとは言えないもんね。本来なら、日々衰えていくだけだから。
あ、ちょっと日本のおばあちゃんの事を思い出しちゃった。もっとも、うちのおばあちゃんは最期まで元気いっぱいだったけど。
いつでも私よりも元気でパワフルな人だったんだ。親に捨てられたようなものだったから、おばあちゃんの明るさに大分救われたっけ。
天国のおばあちゃん、私はここで元気に生きていくから、心配しないでね。
お母さん達は……別にいいや。どうせ好きに生きるだろうから。私がいた頃からそうだったし、人の言葉なんて聞かないしね。
「あのウーズベルの人達、砦で捕まった仲間を放って帰っちゃったけど、いいのかしら? 彼等の事、何も言っていなかったわね」
「そういえば……」
ローメニカさんの言葉で思い出した。迎撃システムに捕まった人達、数十人いたよね? あの人達、今どうしてるんだろう?
「彼等? デンセットの牢屋に放り込んであるわよ?」
あ、そっすか……。てか、デンセットにも牢屋ってあるんだね。ローメニカさんの話によれば、保安組織の建物の奥に、いくつかあるそうだ。へー。
とりあえず、目の前の面倒ごとは去ったのでよし。実害はないからいいけど、鬱陶しいものは鬱陶しいのだ。
そしてそんな厄介ごとでささくれ立った心を癒やしてくれるブランシュとノワール。二匹とも可愛いよう。
ノワールが足下で寝ているので、ブランシュを膝上で撫でる。手触りのいい子だよね、本当。
そんな様子を、銀髪陛下が見ていた。まだいたんだ。来客用の棟に帰ればいいのに。
「それは、グリフォンの子だよな?」
「そうですよー」
「石切場に出たグリフォンの子か?」
「そうですよー」
「白とはまた珍しい……」
「そうですよー」
あ、間違った。そうですかーって言おうとしたのに。ま、いっか。でも銀髪陛下が何だか不機嫌そう。
「……お前は俺が王と知っても、態度が変わらないんだな」
「そうですかー?」
今度は間違えない。そして、王侯貴族なんて私にとっては珍しくないし、近づきたくない連中ナンバーワンだ。
膝の上で、ブランシュが小さく鳴きながらうっとりしてる。撫でられるの、好きだもんね。
最近砦の修繕であれこれ動いていたから、ゆっくり撫でる時間も取れなかったなあ。
砦は建物の方が一旦終わったので、残りの内周、外周の壁と第三区域に作る畑の整備かな。
畑はここらで採れる野菜は外して、近隣ではあまり見ない野菜を栽培しようと思ってる。そろそろレタス食べたいレタス。
あれ? 寒いところだと育たないかな? 一部の野菜は温室だな。
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