第118話 成果なし

 食後の優雅な一時、表では招かれざる客達が大騒ぎしております。


『駄目です! 矢も届きません!』

『壁も無理です。触れられません!』

『工兵達からの連絡です。壁の近くは土が硬くて掘れないそうです』

『ええい! どんな手を使ってでも、中から魔法士を引きずり出せ!!』


 さっきから、あれこれやってるみたいだけど、無理だよー。


 ついでに、高給優遇するだのお抱え魔法士にするだの好きなだけ宝石やドレスをやるだの言ってるけど、どれも魅力を感じませーん。


 これでも一応、二年は王子妃やってたんだからな。しかも、復興中の北ラウェニアより南ラウェニアの方がいい物揃ってたんだから。


 まあ、それも北の復興の度合いによっては、今後抜かれるかもしれないけどね。


 少なくとも、ざっと見た感じ、鉱物資源や何かは北の方が量が豊富。南は採掘し切った感があるけど、北はこれからだと思うよ。


 この領にも、金鉱脈が見つかったしね。探せば他にも有用な鉱脈、見つかるんじゃないかなあ。その辺りは領主様、頑張れって感じで。


 ちなみに、デンセットに向かった一団は早々に追い返されてこっちに合流してる。向こうを任された人は、こっちの責任者に怒られてた。


 そんな様子をみんなでモニターで観覧中、私は亜空間収納である事をやっていた。


 それは、自家製酵母作りであーる。


 いやあ、こっちのパンも美味しいんだけど、やっぱり日本の食パンが恋しくてね。ないなら自分で作る、の方向で。


 で、気づいたのが酵母がない。家で作った時は、インスタントドライイーストを使ってたからなあ。


 でも! 検索先生にはちゃんと自家製酵母の作り方もあった! ははは、さすが検索先生。いつもありがとうございます。


 まず、フルーツを用意し、煮沸消毒した瓶と同じく煮沸したぬるま湯を用意。瓶は浄化で、水も浄化した後魔法でぬるめにしてみた。


 フルーツは、ここらで簡単に手に入るちっちゃめリンゴのリーユ。見た目的に酸味が強い種かなあと思ったら、意外や意外、すんごく甘いんだこれ。


 大好きで、デンセットで見かける度に買ってたら、亜空間収納の中に山のように保存されてました。


 そのリーユを、皮が付いたまま八つに割って瓶の中へ。後は温度管理に気をつけておけば平気。


 亜空間収納内だから、蓋はしなかった。何かが入り込む心配はないからね。


 本当はこれで発酵するまで待つんだけど、そこは亜空間収納、魔法の出番です。時間をちょいと早めて、攪拌と空気を入れるのを繰り返し、完成。


 お次は元種を作っておく。このままストレート法で生地を作ってもいいんだけど、今回はふんわりパンを目指すから。


 消毒済みの瓶を用意し、酵母液と全粒粉を入れて混ぜ混ぜ。また時間を早めて二倍にする。これに中力粉と水を入れて再び混ぜ、発酵。


 二倍くらいになったら再び中力粉と水を入れて混ぜ、二倍量程度まで発酵させたら低めの温度で保存。時間をさらに早めて出来上がり。


 ……面倒臭! こうなったら、自動で酵母液作成から元種つくりまで出来るように仕込んでおこうっと。


 後は強力粉と元種、砂糖と塩、油脂、水で生地作りー。あ、モニター内の兵士達が、何か心折られた様子。


 まあ、何やっても無駄ってわかれば、心も折られるよね。


「あのまま帰るのか? あの連中。何もしていないではないか」

「正確には、何も出来なかった……ですね。成果が得られないのですから、いつまでもここにいる訳にはいかないんじゃないでしょうか?」

「あの程度で謀反を起こそうとは……舐められたものだな」


 何やら銀髪陛下とローメニカさんがぼそぼそ話してますが、全部聞こえるよー。


 でも、本当にあの連中、本気で国家転覆とかやらかすつもりだったんだろうか?

 あ、ウーズベルの連中が引き上げていくみたい。そのままデンセットを襲うんじゃなくて良かった。


 もしやってたら、あの連中全員捕縛するところだったよー。


「サーリよ、お主、何故そんなに残念そうな顔をしておるのかのう?」


 え? やだなあ、じいちゃん。気のせいだよ、気のせい。

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