第116話 本当に来たー

 銀髪陛下とローメニカさんが来た日の翌日、何か一団がやってきた。丁度朝の散歩から帰ってきて、これからみんなで朝ご飯、ってタイミング。


 不審者の様子は、居住用の角塔の二階、ダイニングキッチンに急遽付けたモニターで見てる。


 本来砦の門がある場所には現在何もないので、代わりに迎撃システムを二つ置いてあるんだ。そこからのライブ映像です。


『何だ? これは』

『く! は、入れん!』

『まるで、見えない壁でもあるかのようだ』


 詳しい説明ありがとう。そう、門を付け忘れていたので、またしても砦を覆うように結界を展開中なのです。


 それにしても、何ナチュラルに中に入ろうとしてるんだか。ちゃんと家主に許可を求めなさいよ。ダメ、不法侵入。


「見たところ、盗賊ではないようじゃの」

「じゃあ、やっぱり例の隣領の連中?」


 ウーズベル領だっけ。何か国に対して謀反を起こすつもり、なんて話だけど、本当かな。


 なおもモニターを見ていると、じいちゃんが顎髭を撫でながら呟く。


「ふうむ。お客人を心配して、国軍が来ているのやも知れんぞ?」

「えー? じゃあ迎撃しちゃダメじゃん」

「やる気だったんかい……」


 当然。……何でそんな呆れた顔で見るのよもう。向こうから襲撃してきたんだから、迎撃しても正当防衛だよ。


 まあ、死にはしないから大丈夫。ちょっと気を失うか、ちょっと安眠する程度だから。


 そういえば、捕まっていた隣領の兵士達、大丈夫だったかな? 砦を留守にしていたのは約十日。


 もし最初の方に捕縛されていたら、その後飲まず食わずで放置されていた事に。それに、さらに危険なのは排泄という意味でのあれこれ……


 あ、でも見つけた時臭くなかったから、大丈夫なのかな? 今回の人達は、捕まえたらすぐデンセットに送っちゃうから、大丈夫だね。


「何やら表が騒がしいな」


 あれこれ考えていたら、ローメニカさんを後ろに従え、銀髪陛下のご登場。夕べのうちに、食事はこっちで、って言っておいたんだよね。


 来客用の棟、まだ未完成でキッチンとかダイニングとか整ってないんだ。


「あ、銀髪陛下。おはようございます。朝ご飯、どうします? こっちで用意しますか?」


 あれ? 何か銀髪陛下の顔が微妙。背後でローメニカさんは笑いをかみ殺しているし。何で?


「……もらおう。それより、あれは放置していていいのか?」


 あれ? ああ、壁の外の人達か。


「あの壁からこっちには入れませんから、あのままでも無害ですよ。あ、デンセットに向かったら困りますか?」

「向こうは向こうで防備を固めているから大丈夫よ」


 ローメニカさんがそう言うなら、大丈夫だね。

「それにしても、これは便利だな」

「ああ、モニターですか? 魔力がないと動きませんけどね」


 この辺りは、じいちゃんと打ち合わせ済み。砦の中には人に見せてはいけないものも多いけど、この二人だけならいいというじいちゃん判断。


 多分、押し切れると思ったんだろうな。でも、銀髪陛下がモニターを見る目は、獲物を狙う狩人の目だ。


「もにたあ……というのか。どうにか、城で使えるようにはならんか?」

「なりません」

「そ、そうか……」


 あっさりきっぱりにっこりばっさりやっておいた。変に縋られても困るし。


 二人とも、多分魔法の知識はあまり多くなさそうだから、出来る事だよねえ。


 感覚的なものだけど、南ラウェニアに比べると北ラウェニアは魔法の研究自体が遅れている感じ。


 今まで魔大陸から飛来する魔物の相手が大変だったし、土地も瘴気で穢れていたから、そっちで力を持って行かれていて、研究まで手が回らなかったんだと思う。


 だからか、北には腕のいい魔法士が少ない。魔力量が多い魔法士もね。そして魔法に関する知識もまた、少ないんだよな。


 だから「稼働させるにはもの凄く魔力を使う」って言っておけば、大概のヤバい物も実用性なしと思われる……んじゃないかな?


 まさか、魔力用に私かじいちゃんをセットでよこせとか、言わないよね?


 まあ、そうなったらダガードとお別れするだけだから、別にいいけど。

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