第114話 頑固者めー

 ぽかんと口を開けて驚いていたら、領主様に苦笑いされてしまいました。


「サーリは本当に知らなかったのだな」

「えー……だって、私この国の人間じゃないし……」

「おお、そういえば、余所から来たのだったな。まあ、国内でもカイド様の顔を知っている庶民は少ないがのう」


 まあ、王様の顔なんて肖像画でしか見る機会、ないもんね。こっちには写真とか映像とかないから。


 いや、自分でその魔道具作れるわ……検索先生、凄い。手持ちの素材と術式で、作る事が可能だってさ。


 それはともかく、楽しそうな領主様とは違い、銀髪さん……じゃなくて、国王陛下と剣持ちさんは苦い顔だ。剣持ちさんの方が、より苦いかなー。


 やっぱりあれかね? 庶民といえど自分の顔を知らないってのがショックなのかな?


 剣持ちさんの方は、主君の顔が知られていないのがショックとか?


 なんとも微妙な空気が流れる中、銀髪陛下が咳払いをした。


「で、この娘の警護だが」


 あ、やっぱりそこから離れないんだ。てか、警護なんて本当にいらないんだけど。


「私が行く」

「はあ!?」


 何か、この国の王様が変な事言ったよ!? それダメでしょ! 国王は護衛される側であって、する側じゃないって!


 当然のように、領主様や剣持さんから待ったがかかった。


「陛下、いくらなんでもそれは……」

「お考え直しください! 陛下の身にもしもの事があれば、我が国は立ちゆかなくなります!!」


 おおう、期待かけられてるんだねえ、銀髪陛下。そういえば、ダガードは若い国王が柔軟な政治で復興を進めているって、どこかで聞いたなあ。


 その若い国王ってのが、銀髪陛下かー。確かに若いね。国王って、四十代以上ってイメージだよ。いや、南ラウェニアではそうだったから……


 領主様達だけでなく、フォックさん達もやんわり止めようとしてるんだけど、銀髪陛下に二言はないらしい。


「この国に、私以上の剣の使い手がいるか?」


 領主様も剣持ちさんも黙っちゃったよ。そんなに強いんだ、銀髪陛下。でも、私も反対するよ!


「剣が強くても、大人数でこられたら負けるでしょ?」

「その時はそなたの魔法に頼らせてもらおう」

「いや、魔法に頼るんなら、最初から警護はいらないでしょうが!」


 その後も散々やり取りしたんだけど、結局銀髪陛下に押し切られた……粘り強いな、陛下。


 剣持ちさんは、今にも爆発しそうな様子で、自分も砦に行くと言い張った。


「ユーニドは城へ帰れ」

「陛下の護衛が私の任務です!」

「だからこそだ! お前が砦にいたら、私がそこにいると周囲に言って回るようなものだろうが!」


 つまり、銀髪陛下は城にいますよー、とウーズベル側を騙す為という事か。ちらりと銀髪陛下の方を見てみると、何やら楽しそうな様子。


 何だろう……私の護衛って、ただの建前じゃね?




 結局剣持ちさんは銀髪陛下に押し切られ、後ろ髪を引かれる様子でデンセットを後にした。このまま城へ戻るんだって。


 領主様は、今日明日とデンセットに残るらしい。こちらは元々の予定だってさ。


「そなたが見つけた金鉱脈があるであろう? そこへ送る鉱山技師の選定を行うのよ」


 あー、そういえばありましたね、そんなのも。ここで任せてもらえれば、鉱脈が尽きるまで魔法で採掘出来るよーって教えたら、どうなるかな?


 ……多分、ろくな事にならないな。こういう事は、じいちゃんに相談してからにしないと。そして大体じいちゃんに怒られるというね。


 鉱山技師も、それで稼いでいるんだから、彼等の仕事を横から奪い取るような事をするのはよくないよね。


 それより、目下私の問題は隣に立つ銀髪陛下の事なんだけど。じいちゃんに何て説明しよう?

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