砦の神子様

第112話 面倒な話になってきました

　デンセットのあるここは、北の大国ダガードの辺境領。その隣というと、確か……

「にしても、何故ウーズベルの軍人がここへ？」

　ああ、そうそう、ウーズベルだ。フォックさんの言葉に、領主様達は苦い顔をしている。何か、よくない心当たりでもあるのかな？

　その前に、私、ここにいていいんでしょうか？　一介の冒険者だよ？

　おろおろしていたら、領主様が重い溜息を吐いた。

「どうも、ウーズベルにおかしな動きがあるようなのだよ」

　うえええ。何とか逃げ出せないかなあ？　ちらちら周りを見回すけど、誰も出て行っていいって言ってくれない……

「ジンド、迂遠な言い方はよせ」

「ですが――」

「ウーズベル伯アキュートは、王家に対する謀反の疑いがある」

　銀髪さんの言葉に、組合長室はしんと静まりかえった。

　え……むほんって、えーと……ああ、臣下が君主に背いて兵を挙げる事ですか、ありがとうございます検索先生。

　ちなみに、ウーズベル伯ってのが領主で、名前がアキュートというらしい。これ、コーキアン領で言うとコーキアン辺境伯ジンドって訳。

　それにしても、教科書でしか見た事ないワードが出てきちゃったよ、どうしようこれ。絶対私が聞いていい話じゃないんだけど。

　でも、逃げ出る隙がない。どうなってんの？

　銀髪さんの言葉に、フォックさんは声も出ない様子。領主様は、またしても深い溜息を吐いた。

「これはまだ内々の話だ。漏らすなよ？　フォック」

「漏らせませんよ、こんな大事」

　そう言って、フォックさんはがっくりを肩を落としている。うん、気持ちはわかるよ。

　でも、ウーズベル領主が王家に謀反を起こすのに、なんでうちの砦に侵入する訳？

「わかっておらぬようだな？」

「え？　……はい」

「ウーズベル伯はな、軍の要にそなたの力が欲しいのよ」

「え？　ち、力？」

　ヤバい、何か心臓がドクドクいってる。待って。まさか、私が神子だってバレたんじゃ……

「そなたの魔法は、それだけ強力という事だよ」

　あ……あー、なるほどー。そっちかー。つまり、王家の軍と戦う際、私を矢面に立たせようって訳か。

　あれ？　じゃあ砦に侵入したのって、私の誘拐が目的？　私、留守にしてたんだけど。

「今回はそなたが留守だったから、攫われずに済んだがの」

「留守でなくとも、今回の事を考えると簡単に攫えるとは思えんぞ」

「まあ、確かに」

　ちょっとちょっと、領主様と銀髪さんで勝手な事言ってないでよ。そりゃ、楽に攫われるつもりはないけどさ。

　その為にも、砦を修繕するついでに強化してるんだしさ。

　にしても、神子というのがバレたんじゃないならいいや。魔法が目当てらしいけど、大抵の人間には負けないし。

　砦にはじいちゃんもいれば、ブランシュノワールもいる。迎撃システムも作ったし、それこそ上位種ドラゴンでも襲撃してこない限り、多分平気。

　まあ、上位種は人間の思惑通りになんて、動かないけど。