第110話 押しつけた後は作業作業

 結局休む間もなく、デンセットに行ってフォックさんにお願いする事にした。


 それにしても、組合に入ったら即ローメニカさんに捕獲されるのは、もう決定事項なのかな? 理不尽じゃない?


「でも、組合長に用事があるのは確かなんでしょ?」

「そうだけど……」


 納得いかん。でも、すぐにフォックさんに会えて助かるってのは本当。何だかなあ。


「で? 今度は何があった?」

「砦に侵入者があったの」

「また?」


 いや、確かに二度目だけど、フォックさんとローメニカさんで声を揃えて言わなくてもいいじゃない。


 不機嫌を隠さずにいたら、フォックさんが咳払いした。


「ま、まあそれは置いておいて。で? 侵入者の引き取りか?」

「うん」

「何人くらいだ?」

「……六個くらい?」

「はあ?」


 いや、網一個に何人入ってるか、わからないから。とりあえず、一個の大きさを説明して、フォックさんに荷馬車を出してもらう事になった。


「それにしても、何だ? その網ってのは」

「留守中に忍び込んだらしいんだよね。で、仕掛けておいた迎撃システム……罠に引っかかったらしいんだ」

「何か今、不穏な言葉が聞こえた気がしたが?」

「キノセイダヨ」


 いい言葉だよね、「気のせい」って。




 荷馬車は全部で六台だって。一個につき一台とは。費用は賞金首の可能性があるから、組合持ちらしいよ。


「出すよ?」

「いい。こっちも予算はちゃんとあるんだ。お前の金は、別の形で街に落としてくれ」

「はーい」


 でも、今のところ落とす先がないんだけどな……まあ、この先出てくるかも知れないから、いっか。


 やる事は終わったので、そのまま砦に帰ってまた作業。塔に窓が嵌められたので、大満足。


 窓はスライドじゃなくて、洋館なんかにありそうな両開きの形にした。子供の頃絵本か何かで見て以来、憧れだったんだよねえ。


 いかにもお姫様が住んでるお城っぽいじゃない? ……一応、王子妃ではあったから、肩書きは「プリンセス」ってのをしてた事もあるけどさ。


 あの頃はほら、王宮のしきたりやら何やら憶えるのに大変で、城のあれこれに感動してる暇はなかったから。


 ここは砦だけど、塔はいかにも童話のお姫様が閉じ込められてる塔っぽいから、この窓の方がいいんだよ。こじつけなのは自覚してる。


 窓枠には、ドラゴンの鱗の二層目を使用。削ぐように剥がした部分って、細かく刻んで触媒と一緒に熱を加えると、液状になって加工しやすくなるんだ。


 それを枠状に形を整えて、鱗の三層目を磨いて透明度を出してから嵌めている。うん、凄く綺麗。


 こっちにもガラスはあるんだけど、透明度が低いからちょっとねえ。強度も低いし。


 何にしても、これで塔はほぼ完成……かな? さーて、次は温室だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る