第107話 氷と火の島のドラゴン

 しばらくそのまま固まっていたドラゴンが、ようやく動き出した。と思ったら、何やらがっくりとその場にうずくまってる。


『信じられん……あの邪神を、完全浄化するなどと……』

「えーと……その場の勢いっていうか、そんな感じで……」

『その場の勢いだと!? そのようないい加減な理由で完全浄化したというのか!!』

「うひいいいい!」


 もう怖いから、結界の透明度を下げていい? あの姿を見なければ、まだ怖さも半減すると思うから。


 そっと結界を半透明にして、さらにじいちゃんの背後に隠れる。じいちゃん、そんな呆れた目で見ないで。あの見た目が怖いんだってば。


 下位種のドラゴンはここまで大きくなかったし、それに飛んでるところを落としたからあんまり実物じっくり見ていないんだよね。


 落として息の根を止めた後は亜空間収納にそのまましまったし。収納内で解体もしてる。


 ドラゴンは前足で頭の辺りを押さえつつ、こちらを睨んだ。


『まったく、こんな者が神子だとは……神は何をお考えなのか……』


 多分、何も考えていないと思うよ? 神子なんて呼ばれてるし、それなりの力はあるみたいだけど、今まで一度も神の存在を感じた事なんてないし。


 神子としてそれはどうよ? とは思うけど、私一回も自分から「神子です」なんて言った事ないよ?


 でも、さっきのドラゴンの言葉、もしかして……


『ぐぬお!!』


 あー、やっぱりー……思わずじいちゃんと目を見合わせちゃった。


 これってあれだよね? 神馬が食らった「神罰」だよね? 神子の事だけでなく、神の事も「何考えてんだ?」的な事を言っちゃったから。


 痛みにうずくまってうめくドラゴンを眺めていたら、しばらくしてやっと復帰した。


『ふう……我とした事が……済まぬ、神子よ。許してはもらえまいか?』

「えーと、許します」

『感謝する……』


 あの程度で気を悪くする事もないんだけどね。




 さて、仕切り直しという事で、ドラゴンと向き合う。


『それで? ここへは何をしに来たのだ?』

「えーと、神馬に紹介されて、鱗をもらえないかなあ、と」

『何? 鱗?』


 何か、ドラゴンが引いてるのがわかる。人間にとっての切った爪や抜けた髪の毛と一緒なんだっけ。


「あの! 鱗を素材として欲しいの! 抜け落ちたやつをもらえればなーって。対価も用意してきたから!」

『金などいらぬ。宝石も、腐る程持っておるわ』


 凄いなドラゴン。そういえば、幻獣は光り物が好きって話を、どっかで聞いた事がある。ドラゴンもそういったものが好きなんだ。


 ん? って事は、ブランシュもそのうち欲しがるのかな……それは、ちょっと困る。


 いやいや、今はその話じゃなくて。


「じゃあいらない? 神馬も大好物の果実」

『何!?』


 あ、食いついた。


「これなんだけど」


 亜空間収納から、一個取り出してみた。ドラゴンが目を見開いてこっち……正確には、私が持ってる果実を見つめている。


「対価にこれを持っていけって、神馬に教えてもらったの」

『あやつめ……ぐぬぬ、しかし……うぬう……』


 何やら葛藤しているらしい。鱗を渡すのは嫌だけど、果実は欲しいんだろうなあ。嫌って感情が勝つか、食い気が勝つか。


 そのまま待っていたら、ドラゴンが聞いてきた。


『その果実は、それ一つだけなのか?』

「もっとあるよ? 許可さえもらえれば、すぐに取ってくる事も出来るし」

『何!? それは本当か!?』

「もちろん」


 この場所にポイントを打っちゃえば、魔大陸との行き来は一瞬だからね。隣からじいちゃんの呆れたような視線が飛んでくるけど、気にしない。


 さらに考え込んだドラゴンは、最終判断を下した。


『……ええい! 今持っている果実を全部置いて行け! その代わり、この奥にあるものは何でも好きに持っていくがよい!』

「本当に!? やったー!」


 交渉成立。これで窓にガラスを嵌められるよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る