第105話 空の旅

 空の旅は快適だ。


「いやあ、空間操作でこんな事が出来るとは」


 窓がはまっていない窓枠からは、微風が吹き込んでいる。本来なら、もっと強い風が吹き込んでるはずなのにね。


 現在、高度は二千メートル。そこまで高くしなくてもいいんだけど、調子に乗って飛びウサギを狩ったからさ……


 で、ゴンドラを中に収容した木製ロッカーは、その高さを毎時六十キロくらいの速さで進んでいる。結構な速度だよね。


 でも、目指す場所は砦からすごく遠いから、この速さでも片道十日近くかかる。


 もっと速度を上げればいいんだろうけど、何せ木製ロッカーだからね。下手な事をして壊れでもしたら大変だから。


 目的が窓ガラス代わりにはめるドラゴンの鱗採取だから、急いでいるといえば急いでいるんだけどね。


「でも、ゴンドラの中でのんびり過ごせるから、これはこれでいいやー」

「ふむ。今度はこれで世界一周も行ってみたいのう」

「そうだねえ。砦が完成したら、旅に出ようかなあ」


 この世界、まだまだ旅をするのって一般的じゃないんだ。電車や飛行機なんて当然ないし、歩きか馬車、馬なんかに乗って行くんだけど、歩き以外って普通の人じゃ用意出来ないから。


 貴族やお金持ちなら、まあなんとかってところかな。自分が生まれ育った村や街から一歩も出ずに生涯を終えるなんて人も、珍しくないくらい。


 私はまあ、再封印の旅はしたけどね。それも南ラウェニアから北ラウェニアを経てさらに北の魔大陸までの道のりだったし。


 でも、世界にはこの大陸以外にも大陸はあるだろうし、そこには私達の知らない国なんかがあるんじゃないか。


 もしかしたら、ここらよりもっと進んだ国があるかも。そう思うと、心躍るよね!


 砦で落ち着くのもいいけど、修繕が終わって一休みしたら、そういう旅に出るのもいいかも。




 大浴場を楽しみつつ、進む事九日目。とうとう神馬にもらった鈴が鳴り始めた。


「おお! やっと近づいた?」

「そのようだのう」


 大まかな方向は神馬から教えてもらったし、近づけばこの鈴が鳴るからなんとかなると思ってたけど、本当に何とかなった。


 いや、実はそろそろ空の旅に飽きてきたところだったんだよね。最初は見知らぬ景色が下に見えて楽しかったんだけど……


 海に出てからは、何も変わらないんだもん。ブランシュとノワールと一緒に空の散歩は毎日楽しんでいたけどさ。


 私、絶対クルーズ船には乗れないわ。すぐに退屈になりそう。でも、そんな空の旅もそろそろ終わりになるんだなあ。


 そう思うと、ちょっと名残惜しくなるのは、何故なんだろう?


「お? あの島じゃないのかのう?」

「え? 本当? どれどれ……」


 ゴンドラの展望台から、前方を見る。そこには、まだ小さいけれどしっかり島影があった。


 あれが、ドラゴンのいる島。

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