第99話 報告と許可

 再び領主様のお城の中、例の剣持ちの人に睨まれながら、領主様の前に座ってます。あ、銀髪の人もまだいた。


 あれー? つい二、三時間前にも、同じメンツでここにいなかったっけ?


 あ、今回はお茶と一緒にお菓子が出てきてる。わーい、美味しそー。そういや、なんだかんだでお昼食べ損ねてたわ。


 じいちゃんとブランシュ、ノワールの分は砦に置いておいたから、多分彼等は食べている。山で食べようと思って、忘れてた。


 目がお菓子に釘付けになっていたら、領主様から「お上がり」と微笑まれる。


 子供じゃないんだけどなあ。まあいいや、いただきまーす。おお、バターたっぷりの焼き菓子だ。甘み抑えめだけど、このくらいの方が好き。


 南ラウェニア大陸では、砂糖が簡単に手に入るせいかお菓子がもの凄く甘かったなあ。


 歯に染みるような甘さなんて、そうあるもんじゃないと思うんだけど。少なくとも、日本では上品な甘さがもてはやされてたよ。


 銀のお皿の上にあった二個の焼き菓子をぺろりと平らげると、領主様がにこやかに尋ねてきた。


「それで? フォックから何やら重大な話があると言われたのだが」


 答えようと思ったら、フォックさんが先に話してくれたよ。


「はい、ジンド様。例の山に、金の鉱脈が見つかったそうです」

「何と!?」

「それは本当か!?」


 領主様はもちろん、銀髪の人まで食いついてくる。ああ、領主様と仲よさそうにしているし、身なりから言っても身分が高い人だろうしねー。


 他領とはいえ、自国内に金の鉱脈が見つかったとなれば、大きなニュースだもん。


 私は二人に促されるまま、場所を記した例の板を渡した。


「他にも、石材に使えそうな石も多くありました」

「そうかそうか。いや、実に見事であった。礼を申すぞ、サーリ。これはそなたに褒美を取らせねばな」

「え? いやいや、もう石材も採取しましたし、いりません」

「そう遠慮するでない。そうじゃな、女子ならば美しいドレスや宝石はどうじゃ?」


 ひー!! 本当にいらないですー! どうやって断ろうかと思ったけど、ふとある事が思い浮かんだ。


 あの山、温泉があるんだよね。温泉といえば……


「で、では、あの山に別荘を建てる事をお許しください!」


 建物があれば、いつでも温泉を楽しめる! 思いついたアイデアに、我ながらナイスだ、と自画自賛していたら、領主様に首を傾げられてしまった。


 何で?


「それは構わんが……あのような、何もない山に別荘とな?」

「え? いえいえ、ありますよ。景色も良かったですし、何より温泉があります」

「おんせん?」


 今度は領主様と銀髪の人が、揃って首を傾げる。あー、そういや、こっちの人って温泉を知らないんだっけ。じいちゃんも知らなかったくらいだもん。


「えーと、地下で温められた水があるんですが、それがお風呂のように入れるんです。というか、天然のお風呂ですね」


 効能は色々あるけど、まだあそこの泉質は調べてないから言えないや。外傷とか肩こりとか皮膚病とか、色々あるもんね。


 とりあえず、あの山に別荘を建てる意味があるかどうかだけ、説明出来ればいいのだ。


 にっこにこで説明したら、何だか領主様も銀髪の人も、ついでに剣持ちの人やフォックさんまでぽかんとした顔でこちらを見ている。


 あれー? 何でそんなおかしなものを見るような目でこっちを見るのさ。


 次の瞬間、領主様が大笑いした。


「はっはっは。そうか、そこまであの山が気に入ったか。そのおんせん……とやらはよくわからぬが、いいだろう。好きに建てるがよい」

「ありがとうございます! あ、ちゃんと採掘作業の邪魔にならないところに建てます!」

「うむ。何なら、建設費用もこちらが出すぞ?」

「あ、それは大丈夫です。自分で出来ます」


 また驚かれたけど、現在砦も自力で修繕中ですよ? それを言ったら、今思い出したというように、「ああ、そうか」とだけ。


 領主様、忘れていましたね? まあいいや。内装やらあれこれ、人に教えられないものが山盛りだから、自分で作る以外の道がないのよね。

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