第98話 帰ってきたのに、また行く事に

 砦に戻って、じいちゃんに報告。


「聞いて聞いて! 南の山に金の鉱脈と温泉発見!」

「何!? 温泉とな!?」

「うん! 間違いない!」


 何せ、検索先生がちゃんと教えてくれたからね!


「温泉か……あの山奥の湯は良かったのう……」


 じいちゃんが言ってるのは、再封印の旅の際、立ち寄った山奥で見つけた天然温泉の事だ。川のすぐ側に湧いてて、川の水で湯温調整が出来たんだよねえ。


 その場で簡易のお風呂場作って、みんなで楽しんだっけ……懐かしいなあ。


「今回の温泉、まだ泉質とかは調べてないんだ。領主様に報告した後、許可をもらわなきゃ」


 うん、今回は温泉が目当てなんじゃなく、石材だったから。そのついでに、金鉱脈と温泉、それから磁土を見つけたんだ。


 あ、そうだ、これもじいちゃんに言っておかないと。


「山で石材と金鉱脈、温泉、磁土を見つけたよ」

「じど? そりゃ何じゃ?」

「えっとね……」


 実は、採取した磁土と石英を使って、一枚だけ磁器を作成してみた。もちろん、亜空間収納の中で、魔法を使ってだ。


 で、それを取り出して見せる。ちょっと大きめのお皿だ。おお、白くて綺麗。


「これは……何と……」


 お皿を手にしたじいちゃんは、目を丸くして見ている。ふっふっふ、綺麗だよねえ。


 うち、おばあちゃんが焼き物好きでさ。美術館や博物館の展覧会があると、連れて行ってくれたんだ。


 和物も洋物も好きな人だったから、見た後に外でご飯食べながらアレが良かったこれが良かったって話すのが楽しかったなあ。


 心ゆくまで皿を見たじいちゃんは、神妙な顔で戻してきた。


「これは、人前で出すでないぞ?」

「やっぱりかー……」


 磁器くらいなら、製法を領主様に教えるくらい、いいかなって思ったんだけどなー。


 まあいいや、うちのお皿を全部磁器に取り替える作戦は発動させるから。




 まだ日の高いうちにデンセットへ。門番さんとも、すっかり顔なじみだ。


 あ、そういえば、みんなでおいしいもの食べよう会、そろそろじゃなかったかな。やっべ、言い出しっぺなのに、すっかり忘れてたよ。


 ローメニカさんが、スケジュール調整やらなんやらやってくれてるんだよね。その辺りも、今日確認しておこうかな。


 そして組合に行ったら、ローメニカさんに声をかけるまもなく本人に連行されました。行った先は組合長室。


 いや、いいんだけどね。ここに来るつもりでいたから。でも、何で毎回無言のままここに連行されるのかなあ?


「……いい加減、サーリがとんでもない存在だってのには慣れていたはずなんだけどな」


 目の前のソファに座るフォックさんががっくりと肩を落としながら言う。


 失礼じゃないか? むっとしていると、フォックさんが深い溜息を吐いた。


「じゃあ聞くが、ここに来たのは何の為だ? 例の山はどうした?」

「え? 調べ終わって必要な石材やらなんやらを採取し終わったから、色々情報を書いた板をフォックさんから領主様に届けてもらおうかと……」

「あのな、サーリ。山の調査なんて、一日で終わるものじゃないんだよ。下手すりゃ何十日とかかるのが普通なんだ」

「えー……」


 そんなに時間かけてられないって。不満そうな私に、フォックさんは続ける。


「大体、あの山は結構な高さがあるはずだぞ。そこを、その軽装で登ったっていうのか?」

「登ったというか、なんと言うか……」


 ほうきでひとっ飛びだったので、問題なし。軽装に関しては、結界で暑さ寒さを調整してるから、これも問題なし。


 でも、それをここで言うと、またしてもお説教コースになりそうだなあ。あ、そうだ。


「フォックさん、大変です!」

「あからさまに話を逸らすな!」

「あの山、金の鉱脈があります!」

「何だと!? それは本当か!?」


 よし、食いついた。こっちの世界でも、金は大事な資源。金貨にするのはもちろん、余所の国との取引には金塊をそのまま使う事もある。


 だから、国内の金の鉱脈って、凄く大事なんだよね。


「それはジンド様もお喜びになるだろう」

「なので、その情報をすぐにでも領主様に届けてほしくて――」

「よし、じゃあ今から行くぞ!」

「え?」


 そのまま、あれよあれよと馬車に放り込まれ、私は再びネレソールへと連れて行かれた。


 何でー!?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る