第96話 領主様のお城
長い廊下を進んで、階段を上ってまた廊下。私達を先導してくれているのは、あの失礼……ではなく、お仕事熱心な剣持ちの人。
多分、まだ若いんじゃないかなあ。二十とかそのくらいだと思う。こっちの人の年齢って、わかりづらいけど。
その人が大きな扉の前で、声を張り上げた。
「フェリファーです。客人を案内しました」
すぐに、中から扉が開けられる。開けたのは使用人の人みたい。自動ドアではなかったかー。残念。
通された部屋は、これまたすごーく派手なお部屋だった。
「おお、フォックとサーリではないか。今日はまた、どうしたのだ?」
部屋の中では、豪華なソファにゆったりと座った領主様が、にこやかに手招いている。あれ? その隣には、見覚えのある銀髪が……
その銀髪の彼が、じろりとこちらを睨んだ。
「庶民がこの城に何の用だ?」
むか。そりゃ庶民ですけど! ここまで来たって事は、許可されたって事なんですけど!
まあ、案内してくれた人には胡散臭い顔で見られたけどさ。今も何か睨まれてる。
気の強い私は、剣持ちの人をにらみ返した。あ、驚いたみたい。ふ、勝った。
そんなどうでもいい事をしている間に、フォックさんが今日ここに来た理由を領主様に説明してくれた。
「なるほど、石材をのう……」
「組合を無視する訳にはいくまい?」
「それはそうなのですが……」
銀髪の人って、偉いのかな? なんか領主様より身分が上って感じ。
やばい、これは早々に逃げ出しておいた方がいいかな? 見た目は大分変えてるから、見ただけで私が「神子」だとわかる人はいないだろうけど。
あ、じいちゃんは別。あの人、他人の魔力が見えるから、それで見分けてるんだよね。でも、そんな特殊能力持ってる人なんて、そういないから。
何だか居心地が悪い。領主様は考え込んじゃってるし、剣持ちの人には睨まれるし、銀髪の人は身分が高そうだし。
そわそわしていたら、いきなり領主様が大きな声を出した。
「おお! そうじゃ。いい案があるぞ!」
「な、何です? 急に」
フォックさんも驚いているよ。でも領主様はお構いなしに、部屋の隅にいた使用人に領の地図を持ってくるように言いつけた。
地図って……庶民に見せていいものだっけ? 確か、凄く大事なものだから、やたらな人には見せちゃダメだってヘデックが言っていたと思ったけど。
あー……いらないところでいらない相手を思い出しちゃった。
いやいや、今はそれより領主様の話。
「実はのう、あの石切場以外にも領地内に山はいくつかあるのだが、今まで手つかずだったのよ。で、その中でいくつか有用な石材が取れそうな山があってのう」
なぬ!? それって、もしかして……
「サーリよ、そなた、その山に行って詳しく調べてきてはくれぬか? もし新しい石材産出がみこめれば、そなたが欲しいだけ石材をやるぞ?」
「やります! やらせてください!!」
まだ誰も切り出していない山だなんて、なんて素敵。好き放題に石材を切り出せるじゃないの!
私の返答に、領主様はにっこにこだ。
「うむうむ。いやあ、悩みの種が一挙に解消出来そうで、助かる」
「へへへ、私も嬉しいです」
だって、誰もいないのよ? 魔法でいくらでも切り出せるってもんじゃない!
砦には、まだいくらでも石材が必要なんだから。いちいち買い出しになんて行ってられないっての。
いや、それが普通じゃないってのは、十分理解してるんだけどね、うん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます