第95話 初めての街
馬車で揺られてやってきたのは、デンセットから少し離れた街。ここはコーキアン領の領都になるんだって。
デンセットの倍はある街に、人の数は倍以上。そして一番奥の高台には、領主様のお城。
これからあそこに行くのかー。許可はほしいけど、お城とかは行きたくないなー。
ぐずぐずしていたら、フォックさんに不思議がられた。
「どうした?」
「いえ……ナンデモナイデス」
片言になっちゃうのは、許してほしいところ。
コーキアン領主の城は、あのジンド様からは想像がつかない程無骨。いかにも実用性重視です、って見た目だ。
灰色の石造りで守りが堅い感じ。フォックさんの話では、魔物相手でも人間相手でも、負け知らずの名城なんだって。人間相手でもって……
「こんな場所でもな、領土を廻る戦争は何度もあったんだよ」
「魔物の脅威がすぐそこにあったのに?」
「人間は欲深くて愚かだと思うよな」
ですねー。まあ、ローデンの周辺でも戦争はあったけどね。武力を使ったものというより、婚姻政策やら舌戦を使った戦争だけど。
ローデンも、王太子は隣国から王女様をお妃にもらってたし、一緒に同盟も結んでいたな。
「政略結婚とかは、ないんですか?」
「あるにはあるが、割と簡単に結婚による同盟を破棄してくる国が多いから、あんまり意味がないんだ」
何と! お嫁に出したお姫様達の事は捨て駒ですか!? 酷いな。もしかして、この国もそういう国?
ちょっと渋い顔をしてしまったらしくフォックさんが慌てて付け加えた。
「ダガードは違うぞ!? 姫を出した事も、嫁にもらった相手国を裏切った事もないからな!?」
「本当ですか?」
「本当だとも。疑うなら、ジンド様に確認してもらってもいいぞ」
そこで、何でジンド様の名前? 首を傾げたら、フォックさんが苦笑いしながら教えてくれた。
「あの方は、この国の宰相でもあるんだ。割と王都を空けがちだけどな」
「ええ?」
宰相が王都を空けていいの? ジンド様曰く、書類はどこにいても問題ないけど、領地は自分の目で見ないといけない、らしい。
そうしないと、問題点がわかりにくいんだって。領主としてはありがたい言葉だけど、宰相としてはどうなの?
まあ、自分の領地も守れない人に、一国を守れるとは私も思わないけどさ。
領主様のお城は、近づくとその大きさに圧倒される。高台にあるから大きく見えただけでなく、本当に大きいんだ。
いくつかの門を超えて、馬車のままお城の前庭へ。ここまでフォックさんの顔パス。実は偉い人だったの?
馬車を降りたら、剣を佩いた兵士……じゃなくて、騎士かな? の人が走ってきた。
「フォック殿! 先触れもなくお越しとは、どうかなさったか?」
「あー、いや、こっちの子が、ジンド様に頼みがあるって言うんでね。連れてきた」
「この娘御が……?」
胡散臭いものを見る目で見られてる。まあ、そこらの庶民がいきなり領主様に会いたいとかいって城まで来るなんて、そうそうないよね。
じろじろと頭から足先まで見られて嫌だったけど、不審者を城に入れる訳にいかないもんなあ。彼は彼のお仕事をしているんだと思おう。
結局、フォックさんがついているからか、無事城の中に入れました。中も重厚……かと思いきや、全く違った。
すんごい派手。これ、ジンド様の好みなのかなあ。まあ、派手ではあるんだけど、方向性は統一されているので下品さは全くない。
ある意味、これも凄いなあ。こういうところに持ち主のセンスが現れるから。
やっぱりここの領主様って、凄いんだね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます