第94話 好きにやっちゃダメ?

 翌日は、朝の散歩の後、砦に戻ってから一人で石切場まで石材の買い付けに。


 物は試しと、責任者の人に、自分で切り出しちゃダメか聞いてみた。切り出した分は、ちゃんと正規の値段を払って買うとも。


 なのに、即却下を食らっちゃった。


「駄目だ駄目だ! 素人を入れる訳にゃいかねえよ!!」

「でも! 自分で切り出した方が早いし、必要な分を一度に用意出来るから助かるんですけど!!」

「ああ!? てめえ、石を舐めんじゃねえぞ」

「舐めません、そんな汚い」

「そういう意味じゃねえ!!」


 しばらく責任者とやり合ったけど、結局受け入れてくれなかった。しかも、今日の分の石材も売ってくれない。


 くそう……どうしよう。




 ふてくされて砦に戻ったら、じいちゃんから聞かれた。


「またそんな顔をしおって。今度は何があったんじゃ?」

「実は……」


 私が石切場であった事を話すと、じいちゃんは顎髭に手を当ててしばらく考え込んでいた。


「普通、ああいった山は領主の持ち物じゃ。じゃから、そういう上の者から話を通せばいいんじゃろうが……そういや、この砦関連で領主殿とは面識があると言ってなかったかのう?」

「……言った」


 コーキアン領の領主は、あのジンド様だ。見た目は派手だけど、実は凄くいい領主様なんだよね。ローデンでは見なかったタイプの貴族だ。


 そのジンド様とは、砦関連だけでなく、襲撃してきた何とか一家の件でも、関わりがあった。というか、褒められた? 報償金もらえたし。


「なら、領主殿から石切場へ話を通してもらえ。それが一番確実じゃ」

「でも、領主様がどこにいるか、私知らないよ?」

「知ってそうな奴はおらんのか?」


 いた。フォックさんなら知ってるはず。なんか、知り合いっぽかったし。と言う事は、フォックさんに仲介してもらえばいいのか。


 善は急げ。今度はデンセットだ。二匹に一緒に来るか尋ねたら、行き先がデンセットだからか、じいちゃんと留守番してるってさ。ちょっと寂しい。


 デンセットに到着して、早速組合へ。入った途端ローメニカさんに捕獲されるのは、何故なんだろう? 解せぬ。


 そのまま組合長室に連れて行かれたので、手間が省けたと思っておこう。でも解せぬ。


「さて、今日はどんな用があったんだ?」

「実は、石切場で石材を自分で切り出したいんだけど、責任者が許してくれないんです。だから、出来たら領主様の許可が欲しいなあ、と思って……」

「どういう事だ?」


 首を傾げるフォックさん達に、砦修繕の為の石材不足を告げた。


 人手で切り出すのは時間がかかるから、魔法で切り出したいんだよね。その方が一度に大量の石材を切り出せるから。


 その辺りを説明すると、フォックさんが腕を組んで唸り出す。


「うーん……石切場に関しては石工組合が関わってくるからなあ。とはいえ、あの一帯の山はジンド様所有のものだ。組合も、ジンド様からの許可があれば文句は言わないだろうが……」


 言いよどむって事は、何かあるんだろうなあ。いくら領主様でも、組合の事は無視出来ないとか?


 しばらく考え込んでいたフォックさんが、不意にこちらに向き直った。


「よし! これからジンド様のところへ一緒に行こう」

「ええ?」


 私も行くの? 許可もらうのは私だから、当然か……


 でも、領主様のところへとは。あんまり身分が高い人とは関わり合いになりたくないんだけど。


 じゃあ切り出し諦めるかって? 諦めないよ!

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