第92話 飛びウサギはおいしいらしい
夕べの空が晴れだったから、今日も大丈夫だろうと思ってた。凄く綺麗な晴天。でも、そろそろ空気が冷えてきてる。
「それじゃ、行こうか」
「ピイイ」
「行コウ」
「準備は出来てるぞい」
いつも通り、朝食後の朝の空中散歩。でも、今日はちょっと遠出モードだ。
といっても、普段とあんまり変わらない。変わったのは、迎撃システムを起動して、侵入防止結界を張ったのは一番内側の壁の周囲のみ。
じいちゃんが制作中の船に関しては、そのものに光学迷彩結界を張って、外から見えないようにしておいた。
まだ細かい作業が残ってるから、狩りに出ている間も進めておきたいんだって。
私の方はコンクリが出来ないうちにあんまり進めてもねえ、という事で、今日の作業は実質中止。
飛びウサギの狩りが早く終われば、戻ってコンクリ作って作業するよ。
「おお!」
いつも通り朝の飛行訓練を兼ねた散歩を終えて、北の海へ出る。デンセット辺りに比べると、こっちはさらに北だからか空気が冷たい。
海も、波が荒いようだ。
「北の海か……二年前を思い出すのう」
「……そうだね」
二年前、邪神のいる魔大陸にじいちゃんと二人で行ったのは、ここからもっと東の海岸からだったっけ。
あの時は春先だったけど、邪神の影響で海は大荒れ。
とても船を出せる状況じゃなかったし、何より魔法を使える人間以外は連れて行くのが怖かったから、じいちゃんに頼んで二人だけで向かったんだ。
今、魔大陸は邪神のいた頃とは全く違う姿になってる。神馬やドラゴンが好きな果実も、たくさんなってるし。
あの場所の真実を知るのは、私とじいちゃんだけでいい。もっと未来には誰かがあの大陸に足を踏み入れるかもしれないけど、それまでは。
「大丈夫か?」
「うん、へーき。さあ、ちゃっちゃと海水を汲んでいかなきゃ」
これから飛びウサギ狩りもあるんだから。感傷に浸ってる暇はないのだ。
海水をしこたま汲んだあとは、ぐっと南下してウサギ狩り。
てっきり平地にいるものと思っていたら、こいつらも山……しかも崖を好んで棲み着くんだそうな。
検索先生が示す地図を頼りにその崖にいったら、いた。わらわらいた。そして飛んでた。
あれ、ウサギか? モモンガの間違いじゃね? あ、でも耳は長いわ。
皮膜を使って空中を飛び、崖を登ったり下りたりして生えてる草を食べてる。
「こりゃまた、大猟になりそうだのう」
そうだね。実際のゴンドラは小さく出来そうだから、そんなに数はいらないのかもしれない。
けど、多ければ多い程必要魔力は少なく出来るみたいだから、省魔力に挑戦してもいいかも。
では、予定通りじいちゃんと飛びウサギ狩りだー!
じいちゃんは即席の網を魔法で操って器用に捕まえていく。私は魔法で風を起こし、一部の飛びウサギをいっぺんにかっさらった。
大雑把なのは仕様です。だって、この方が楽だし早いから。
「相変わらずじゃのう、お主は」
「人間早々変わらないって」
狩りも二人がかりだとやっぱり早い。小一時間程度で二百羽近く。
ウサギって、一羽二羽って数えるんだってね。ちっちゃい頃おばあちゃんに教えてもらったんだ。
でも、学校の友達に話すと笑われるか、馬鹿にされるかだったんだよなあ。古い数え方なのかね?
「なかなかの数じゃのう」
「これだけあれば、飛行船には十分だと思うよ」
「肉も食えるんじゃったか?」
「検索先生曰く、おいしいらしい」
目の前に積み上げられた飛びウサギを前に、私とじいちゃんはどう料理するかよだれを垂らしながら相談した。
焼きもいいけど、煮込みもいいよね。あ、フライはどうかな? いっそ全部試してみようか?
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