第82話 黒いブツは即刻処分

 ともかく! 自分の毛を刈ってくれる存在には、割と警戒心を解きやすいのがこのコビト羊だそうだ。なるほどねー。


 最初は一頭ずつ刈っていたけど、途中で効率が悪い事に気づき、いっぺんに十頭ずつ刈っていく。いや、捗るねー。


 毛刈りにほくほくしていたら、ブランシュとノワールが騒ぎ出した。


「ピイィィィ!」

「何カ、イル」


 何かって、何? 咄嗟に索敵魔法で辺りを探ると、何か凄い数の魔獣反応がある。


「じ、じいちゃん! 凄い数の魔獣!」

「うむ。こちらに近づいておるな。それにしても、羊たちはおとなしいのう」

「さっき沈静の魔法を使ったからかなあ……」


 でも、これだけの魔獣が近づいていたら、騒ぎ出しそうなのに。コビト羊は相変わらずメーメー鳴きながら整列している。お行儀いいね。


 地図に魔獣の位置情報を反映させて見ていると、森の方から近づいてきてる。それも、結構なスピードだ。


「一体何……が……」


 言いかけて、声が途中で止まる。うん、森の方から、黒い塊がわさわさ近寄ってきているのを見たから。


 遠目からでもわかる、あの動きとぬらっとした外見。あれは、見ちゃダメだ。見ちゃダメ。


 そこからは、もう無意識に動いていた。まず、黒いブツのちょっと外周から結界を網のように使って捕縛。


 それから結界の中の温度を一気に一千度くらいに上げる。黒いブツは焼いて抹殺!


 臭いが来ても嫌だから、風を操って焼却の臭いも全部上空へと巻き上げておいた。これで森にも地面にも影響はなく、駆除完了。


 これら全て、表示した地図画面だけを見ながら行った。だって、ブツは見たくないし。見ただけで鳥肌ものだよ。


 それにしても、でかかったな、あのブツ。あれがコビト羊の羊毛のみを目当てに来るとか……あー、想像しただけで寒気がする。


 いや、今はそれはいい。脅威はさったのだ。あとは頑張って毛刈りを終わらせればいいだけ。




 ここに来てから数時間、そろそろ辺りが暮れてきた頃に毛刈りは終わった。


「やったー! 結構取れたー」


 これでベッドパッドやクッション、毛布なんかも作れるぞー。あ、作り方を検索先生で調べておかなきゃ。


 ほくほく顔の私を見て、じいちゃんがぼそりと呟く。


「相変わらず器用な事をするのう」

「えー? 器用って……ああ、毛刈りの魔法の事?」

「それ以外にもな……昔もそうやって、次から次へと変わった術を編み出しておったのを思い出すのお」


 そういや、その度にじいちゃんに叱られたっけ。ヘデックにも見せちゃだめだって、散々説教されたんだよなあ。


 今ならわかる。ヘデックに私の魔法がバレるという事は、ローデン王家にバレるという事なんだ。


 そうなったら、あんなに簡単に国を出られなかったんじゃないかなあ。


 ……でも待って。あの国で私に敵う魔法士なんて、いたっけ? いないよねえ?


 じいちゃんなら私をどうにか出来そうだけど、じいちゃん自身が縛られるのを嫌うから、私の事も野放しにしたと思う。今もそうだし。


 だとしたら、ヘデックが知っていても、問題なかったんじゃね?


「まーいっかー」

「何じゃ? 急に」

「何でもなーい。さあ、やる事も終わったし、帰ろうか」


 ブランシュとノワールも、お腹空いたよね? 砦に帰って、おいしいご飯食べよう。 

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