第80話 妖霊樹は肉食系

 高級木材となる妖霊樹は、深い谷なんかによくいるらしい。もちろん、居場所は検索先生で調べ済みだ!


「おお、あそこかな?」


 空から見ると、本当に霧に包まれた深い谷って感じ。妖霊樹って、日光で光合成するんじゃないんだってさ。


 魔獣を食べる肉食植物なんだそうだ。まあ、あれだよ。食虫植物とかもいるから、獣を食べる植物もいるんだよ。


 ただ、妖霊樹って魔獣が近寄ってくるのを待っているんじゃなくて、自ら動いて狩りに行くらしいけど。


 木なのに、歩くのか……ちょっとホラーな絵面が脳内を駆け巡る……


「じいちゃん、下りるよー」

「はいよー」


 ほうきの下には、籠に入ったじいちゃんとブランシュとノワール。


 二匹は普段私の懐に入るんだけど、籠を見たらそっちがいいって、じいちゃんのとこに行っちゃった。ちょっと寂しい。


 谷の底は、霧で何も見えない状態。この状態じゃあ、日の光も届かないね。だから植物も肉食になるんだ。


 いや、逆かな。肉食だから日の光が差さない場所でも生きていけるのか。


 籠から出てきたじいちゃんの腕の中には、ブランシュとちっちゃくなったノワール。


 くそう。私の幻獣なのにい。そういえば、最近空の散歩以外ではあんまり触れあってなかったなあ。それが原因で避けられてる?


 どうしよう、ブランシュとノワールに嫌われたら。生きていけない!


「サーリ、サーリ、どうしたんじゃ?」

「え? ああ、何でもない……ブランシュ、ノワール、こっちにおいで」


 両手を広げても、二匹がこない。じいちゃんの腕の中で、ふいっと顔を逸らしてしまった。


 えー!? 本当に嫌われたのー!?


 涙目になっていたら、じいちゃんが苦笑いしている。


「ほれ、お前達もあまりすねると、サーリが泣いてしまうぞ?」


 じいちゃんの言葉に、二匹がちょっとだけうなだれた。


「ピイィィィ……」

「サーリ、ゴメンナサイ……」

「こいつらは、少しばかりすねていただけよ。ほれ、ここしばらくは神馬がよく来ておったろう?」

「そういえば……」


 ノワールへの飛び方講座やら、ドラゴン関連の話を聞くのに呼び出したからなあ。


 その際、あの綺麗なたてがみにうっとりしていたのを、二匹が見てやきもちを焼いた、という事らしい。


 もう! 何て可愛いの私の幻獣達は!! あと、ほったらかしにしてゴメンね! もう絶対しないから。


 ひとしきり二匹をモフっていると、じいちゃんから声がかかった。


「妖霊樹の気配はするが、この霧が邪魔じゃのう」

「そうだね。じゃあ、ちょっと払っちゃおうか」


 霧なんだから、風で吹き飛ばせる。小さめの竜巻を起こして、周辺の霧を谷の上へと巻き上げた。


 そうしたら、谷底にいるわいるわ、妖霊樹がわらわらと。何でわかるかと言えば、幹の部分にわかりやすく目と口があるから。


 妖霊樹達はこっちを見て、一斉に襲いかかってきた。根を足代わりに、走る走る。しかも、割と速いよ!?


 あっという間に囲まれたけど、すぐに防御用の結界を張っておいたから、敵の攻撃は通らない。


 とりあえず、検索先生に聞いた妖霊樹の倒し方を実践してみよう!


 妖霊樹の弱点は、根元の部分。ここを水平に切ると割と簡単に倒せるらしい。


 ただし、妖霊樹は物理攻撃耐性が高く、魔法耐性も高い厄介な存在。でも、手がない訳じゃないのだ。


 魔法と物理の混合攻撃には弱いんだって。何だそりゃって感じだけど、魔力を込めた水を高圧力で噴出し、妖霊樹の根元を薙ぐようにしていく。


 そうすると、ばたばたと倒れていくから面白い。周囲の妖霊樹を倒したら、こいつらヤバいと判断されたのか、残りの妖霊樹達が逃げ出した。


「逃がすかあ!」


 片っ端から高圧魔法水――マジックウォーターカッターとでも名付けよう――で薙いでいく。


 そりゃあもう、簡単に倒れていくから、しまいにはただの作業となってました。


 結果、得られた妖霊樹は計四千本超。


「サーリよ……」

「うん、ほら、亜空間収納に入れておけば、劣化しないから」


 多分、砦や何やらで使う以上の妖霊樹を取ったと思う。でも、気にしない! 妖霊樹も増えると人を襲う事があるっていうから。


「……これだけ深い谷の底にいるやつらなら、人里まで下りてくる事はなかろうよ」


 じいちゃんが何か言ってる気がするけど、平気平気。


 さあ、次の素材はコビト羊かな!?

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