第77話 また貴様か隣の領め!
冒険者組合は、今日も混雑していた。
「昼近い時間帯なのになあ……」
「まあ、この辺りは仕事が多くあるから、こんなもんじゃろ」
デンセットもあちらこちらで土地の開発をしたり、壊れた壁やら建物やらを修復したり、周辺の魔獣を狩ったりするので、人手はいつでも不足しているっていう話だしね。
じいちゃんの登録を行おうとカウンターに行くと、奥にいたローメニカさんに見つかった。
「あら、サーリ。今日は仕事を探しに?」
「ううん、おっきなウサギを狩ったから、その毛皮や牙を買い取ってもらおうと思って。あと、じいちゃんの登録をしに」
「じいちゃん?」
ローメニカさんの視線が、私の隣に立つじいちゃんに向かう。
「私の祖父のじいちゃんです。あ、名前はバムです。じいちゃん、こっちは私がお世話になっている組合の人でローメニカさん」
「孫のサーリがいつもお世話になっておりますですじゃ」
「あ、いえ、こちらこそ……サーリの、おじいさん?」
私とじいちゃんで同時に頷いた。ローメニカさん、何でそんなに驚くのかな?
とりあえず、登録作業はローメニカさんがやってくれるらしいので、じいちゃんは登録用紙にあれこれ書き込んでいる。
「むう、魔力量を書かねばならんのか。お主はどうしたんじゃ?」
「計測器っぽいもので測ろうとしたらダメで、もっと大きな計測器を使って測ったよ。確か、三百五十以上あったかな」
「なるほど。わしもそっち行きだのう」
だよねー。じいちゃんが最強って呼ばれる理由の一つに、豊富な魔力量があるから。
結局、魔力計測の段階で私と同じコースをたどりました。はは。
無事じいちゃんの登録も完了し、ウサギの毛皮や牙も買い取ってもらえたので、本日のデンセットでのお仕事終了。買い取り金額は全部で八万七千六百五十ブール。結構いいお値段だ。
よし、このまま絨毯買っちゃおう。
「じいちゃん、買っていきたいものがあるんだ」
「何を買うんじゃ?」
「絨毯。空を飛べるようにしようと思って」
「お主……まあ、ドラゴンの元へ行くのなら、必要かのう……」
じいちゃん、どうしてそんな遠い目をするかな? だって、必要でしょう? じいちゃんみたいに土ゴーレムの馬を作るより速いし、どのみち島だから海を渡る必要もある。
空を飛ぶ手段があるんだから、使わない手はないでしょ。
という訳で、絨毯を扱ってるお店にゴー。
店に行けば、簡単に絨毯が手に入ると思っていた時もありました。
「売り切れ!?」
「ええ、隣の領で需要が高まったらしく、つい昨日商隊の馬車に積んで送り出したところですよ」
「つ、次の入荷は、いつ?」
「さあ……生産元に確認しないと。ただ、絨毯は一枚出来上がるまでに年単位で時間がかかりますから……」
当面、入荷の見通しは立たないとの事。ですよねー、確か、全部手織りで作るから時間がかかるって、昔テレビで見た事があるよ……
結局入手ならず。入荷がいつになるかわからないので、それでもよければ予約を受け付けるって言われたけど、今必要だから。
「で? どうするんじゃ? 絨毯の代わりになるものを飛ばすのかの?」
んー、正直、馬車を作ってそれを飛ばすんでも、いけると思う。意外と絨毯よりもそっちの方が乗り心地いいかもしれないし。
よし、じゃあちょっくら、馬車を買っていこうじゃないか!
「売り切れ?」
「ええ。何でも、隣の領で大量に馬車が必要になったとかで……」
また貴様か! 隣の領め!!
何でも、隣の領から来た商人が在庫の馬車をさらえるように買っていったらしい。馬車屋はほくほく顔だったな。
在庫がないので当然売るものなく、今は馬車用品のみを店頭に置いてるそうだ。次の入荷はどんなに早くても二十日後だとか。
しかも既に予約が入っているので、今予約しても実際に買えるのは冬を越えた頃だという。
「何か、こんな話、前にも聞いた」
「絨毯屋の話か?」
「ううん。石屋での話。店頭在庫が全部隣領に買われてたの。だから石切場まで直接買い付けに行ったんだけど……」
あの時はまだ生産場所で買えたからいいけど、絨毯も馬車も作るのに時間がかかる。今すぐ欲しい私としては、大変困るのだけど。
一体隣の領って、どうなってるのよ?
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