第76話 じいちゃんの偽名

 巨大ウサギのシチューは、なかなかの味でした。検索先生、レシピをありがとー。肉の下処理、一度あぶると臭みが消えるって意外だったわ。


 毛皮とかは現状使わない素材なので、デンセットの組合で買い取りに出そうかな。


「街へ行くんか? んじゃあ、わしも行こうかの」

「何か買う物でもあるの?」

「いんや、わしも冒険者登録しておこうかと思っての」

「え? じいちゃんが? あ、でも問題ないのか」


 何せ元はローデン最強と言われた魔法士ですから。


「そいじゃあ、わしとサーリの関係をどう説明するかのう?」

「普通に師匠と弟子って言えばいいんじゃないの?」

「それだと、砦に一緒に住む理由には弱くないかい?」

「んじゃあ、祖父と孫は?」

「ありきたりじゃが、その辺りがええじゃろ」


 まあ、普段からじいちゃん呼びしてるしね。


 とりあえず、ざっと簡単に二人の設定を相談して決めた。じいちゃんと私は祖父と孫という関係。じいちゃんとは二年ぶりにこの地で偶然再会した。


 じいちゃんは私の魔法の師でもある。じいちゃんには放浪癖がある。ざっと、こんな感じ。


「嘘と本当をまぜこぜにした方が、バレにくいっていうからねー」

「わし、放浪癖なんぞないんじゃが」

「二年間も連絡なしにあちこちふらついていたような人は、放浪癖があると思われても当然です」


 一応心配はしたんだからね。まあ、じいちゃんなら元気でやってるだろうとは思ったけどさ。


 でも、年齢も年齢だし、万が一って事もある。


「人を年寄り扱いしおって」

「いや、十分年寄りだから。自覚しようよ」


 本当にもう、何言ってるんだか、この年寄りは。




 じいちゃんも名前を変えて登録するらしい。


「わしの名前も、少しは知れてるからのう」


 まあ、元ローデン最強魔法士だからねえ。南ラウェニアでは有名みたいだから、北ラウェニアにも名前は届いているかも?


 フォックさん辺りは知ってたりして。


「どんな偽名にするの?」

「ふうむ。ちなみに、お主はどうやって決めたんじゃ?」

「私? 私は本名をもじってひっくり返したの」


 エリスからリサ、それをひっくり返して伸ばしてサーリ。こねくり回し過ぎて、元の形がどっかいっちゃってるね。


 私のやり方を聞いたじいちゃんは、しばらく考え込んでから決めた。


「よし、バムとしよう」

「え……それ、じいちゃんの愛称じゃなかったっけ?」

「そうじゃが、割とよくある名でもあるんじゃよ」


 あー、なるほど。よくある名前なら、本名の「バルムキート」の愛称だとは思わないか。


 じいちゃん、頭いいなあ。


「当たり前じゃ。魔法士とは、ここが良くなければなれん職業じゃからの」


 そう言いながら、じいちゃんはこめかみをトントンと指先で叩く。くう、何か嫌みなポーズだな。でも、じいちゃんがやると妙にハマってる。


 二人で歩いてデンセットへ。近いから、砦から歩いてもそんなにかからないんだ。普段は面倒だからほうきを使うけど。


 それを言ったら、じいちゃんに呆れられた。


「この程度の距離くらい歩かんかい。足が萎えるぞい」

「大丈夫だよ。……多分」


 ほ、ほら、砦内では歩いてるし! ……明日から、時間作って砦の外周を歩くようにしようかな。


 街に入る際に、門番さんにじいちゃんの事を聞かれたから、二年ぶりに再会した祖父だと言っておいた。


 びっくりされたけど。そんなに驚く事かな?


「街から出る事すら珍しいからのう。わしやお主みたいに、国から国へ渡る物好きなんぞ、そう多くはないわい」


 あー、そっかー。こっちでは生まれた村や街から一生出ないで過ごす人も珍しくないんだっけ。


 大体、交通機関も発達していないから、移動が大変なんだよね。庶民は徒歩か乗合馬車くらいだもん。


 私の場合はほうきがあるし、じいちゃんは所々魔法で土から作ったゴーレムの馬で移動していたらしい。あれ便利だよね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る