第68話 ダメ! 絶対

 ノワール達が帰ってきたのは、なんと翌日の日暮れ時だった。


「無断外泊禁止!!」


 帰ってきた神馬を前に、人差し指を突きつけて宣言する。うちの子を連れて外泊なんて、聞いてませんよ!


 でも、神馬はきょとんとした様子だ。


「飛び方を教えろというから、教えたのではないか」

「それでも! ノワールはまだ小さいんだから、暗くなったら家に帰してください!」


 こんなちっちゃい子を引き連れて夜遅くまで、しかも無断で外泊もするなんて! 非常識にも程があるよ!!


「いや、もう我が教える事は何もない。後は何度も飛んで経験を積むだけだ」


 え? そうなの?


「本当? ノワール」

「ウン。神馬様ニ、モウ大丈夫ッテ言ッテモラッタ」

「そっかー、よく頑張ったね」


 よしよし。ノワールは体毛が長めだから、ちっちゃい体がもっふもふなのだ。そのもっふもふを全力でなでる。


 あー、素晴らしきかな癒やし。


「ピイィィィィィ」


 途中でブランシュも参戦し、二匹を同時になで繰り回した。可愛いー。


 ふと気づいたら、何かでかい影が側にいた。


「……我も」


 マジか。やだ何この神馬。ちょと可愛いかも。


 さすがにこの大きな体をなで回すのは大変なので、たてがみの辺りをなでる。


 うわー、このたてがみ、すっごいさらさら。いい手触りー。気がついたら、夢中でたてがみをいじってた。


「何やってんじゃ、お主達」


 じいちゃんの呆れた声が聞こえてきた気がするけど、気にしない。




 あれだけたくさんあった果実は、全て神馬のお腹に消えました。……どういう胃袋してるんだろう?


「子は毎日飛ぶ練習をするといい。ここからあの山まで、毎日往復するように」

「ワカッター」

「ノワール、一緒に飛ぼうね」

「ウン」


 これで毎日のお空の散歩が決定、と。そういやブランシュはまだ飛んでないね。まさか、この子も教えてくれる相手と練習が必要とか?


「グリフォンは勝手に飛ぶ。第一、それは親に捨てられた訳ではあるまい?」

「そうだけど……って、よく知ってるね? じいちゃんに聞いた?」

「見ればわかる」


 神馬、恐るべし。なんでも、ブランシュと親グリフォンを繋ぐ「絆」が見えるんだって。


 で、ノワールの方はその絆が断ち切られちゃってるらしい。ノワールの母馬を、ちょっと恨みたい気分。


「天馬は間違った知識で黒い子を捨てている。そのうち、種族として神罰が下るやもしれん」

「え?」

「未来を担う子を捨てるのは、許されぬ事。幻獣は人より神に近い存在。それが未来を捨てるという事は、神に背くも同然。神罰からは免れまい」


 ……確かに、ノワールの母馬を恨みたいとは思ったけど、種族ごと罰が当たれとは思っていないんだけど。


 でも、罰を当てるのは神様だしなあ。


「天馬の知識を正しくさせる手段はないの?」

「おそらくない。あれらは無駄に頑固故」


 神馬の嫌そうな言い方から、どれだけ天馬という種族が頑固なのかがわかる。もしかして、神馬は天馬達の過ちを正そうとした事がある?


 あ、神馬が顔を逸らした。あるんだな。


 何か、ちょっと顔が緩んじゃう。神馬ってば、いい人……じゃなくて、いい馬なんだね。


 照れたような神馬は、一度空を見上げた。


「我はそろそろ戻る。神子よ、何かあれば我を呼べ。報酬がなくとも、神子の声には応えよう」

「あ、ありがと」

「では、さらばだ」

「神馬ー。色々ありがとうねー」


 大地を賭けるように空中へと駆け上がっていく神馬。次に会う時は、好物の果実をたくさん用意しておこう。


 報酬はいらないって言っていたけど、大好きなものならいくらあってもいいよね。

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