第62話 飛べない天馬はただの馬だ
それにしても、ブランシュがグリフォンの王とは。じゃあ、いつか私の元からいなくなってしまうんだろうか?
あれ? でも、私とブランシュって、契約をしてるよね?
「じいちゃん、私、ブランシュと契約してるんだけど、その場合もこの子はグリフォンの王になっちゃうの?」
「何!? 契約じゃと!?」
「え? う、うん」
そういや、石切場で会った事や、ブランシュの希望で私の元にいるって事しか言っていなかったっけ。
「親グリフォンの立ち会いの下、契約を交わしてるよ」
「うむう……そうなると、この子は王にはならんかもしれんな」
「本当に!?」
じゃあ、ずっと私のところにいるって事?
「グリフォンはあまり群れでの行動はしないが、属している群れは存在するという。グリフォンの王は、その群れ全てを統べる存在じゃ。人間と契約している個体が王になる事を、他のグリフォンが許すまい」
そうか。幻獣って、人間嫌いも多いもんね。親グリフォンも、人間は嫌いみたいだったし。
いくら白い子でも、人間と契約しているグリフォンを王にするなんて許せないってところかな。
あ、そうだ。
「ねえじいちゃん。ブランシュがグリフォンの王なら、堕天馬は何かあるの?」
「うん? この子か。特にはないが……母馬がいないとなると、この子は生涯飛べぬかもな」
「え?」
何で? 黒い個体だからって、天馬の種族なんだから、飛べるはずじゃないの? 翼だって、まだ小さいけどちゃんとあるのに。
じいちゃんは渋い顔で答えてくれた。
「天馬の種族は本能で飛ぶ訳ではなく、母馬に飛び方を教わるのじゃよ。この子は生まれてすぐ母馬に捨てられておるから、飛び方を教えてくれる相手がおらん。それでは、飛べる訳もあるまい」
知らなかった……思わずノワールを見る。ノワールもこっちを見ていた。
「ノワール、飛ベナイ?」
悲しそうなノワールの声に、思わずぎゅっと抱きしめた。腕の中の温かな体。その小さな体がブルブルと震えている。
「天馬にとって、空を飛べないという事は馬の歩けぬと一緒じゃ」
確か、歩けない馬って処分されるんじゃ……あ、それは牧場での話か。野生だとどうなんだろう?
あ、でも、立ち上がれない子は育たないとかなんとかじゃなかったっけ? どっちにしても、先がないじゃない。
「じいちゃん! 何か、手はないの?」
かなり無茶な事を言ってるのはわかってる。でも、このままノワールが飛べないままだと、この子が可哀想だよ。
しばらく目をつむって唸っていたじいちゃんは、かっと目を見開いた。
「可能性は低いが、手はある」
「本当!?」
「ただし、相手が問題での。酷い気分屋なんじゃ。やつをその気にさせねばならんのだが……」
なんか、じいちゃんがもごもご言ってる。でも、可能性があるのなら、それに賭けたい。
だって、このままじゃノワールはずっと飛べないままなんだから。最初から飛べない種族ならそれでいいけど、この子は飛ぶ種族だ。
だったら、やっぱり飛ばせてあげたいよ。
「じいちゃん、お願い。ノワールに飛ぶ事を教えてくれる人に連絡して」
「うーむ。……まあ、何とかなるかの」
「本当!? やったー!! ありがとう!」
私は飛び上がってじいちゃんに抱きついた。
「これ、まだ向こうが受けると決まったわけでは――」
「それでも! ありがとう……」
あー、やべ。涙出てきた。何かここ最近、涙腺緩んでるなー。
じいちゃん情報だと、何か気難しい人っぽいから、気をつけないと。気合いを入れていたら、じいちゃんから爆弾発言。
「あ、それとな。呼ぶのは人じゃなくて、神馬なんじゃ」
「しんば?」
「神の馬って事じゃな」
何ですとー!?
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