第59話 侵入者?

 無事大量の石材を買い込み、浮かれて砦に帰ってきたら、何かいる。え? 誰!?


「ブランシュ! ノワール!」


 あの二匹をお留守番に置いて行ったのに! ってか、私の結界をすり抜けるって、誰よ!?


 うん? 結界をすり抜ける? あれ? 待って。そんな事出来るのって、多分世界にただ一人……


「おお、戻ったか! ……お主、ユーリカ……じゃよな?」

「じいちゃん!!」


 砦の最奥、出しっぱなしのテントの影からひょっこり姿を現したのは、私の魔法の師であり、再封印の旅を共にしたローデン最強の魔法士バルムキート!


 そうだよ、この結界を壊さずに中に入る事が出来る人なんて、じいちゃんくらいしかいないって!


 でも、何でそんな変なものを見るような顔でこっち見てるの?


「……どうしたの? じいちゃん」

「もう一度確認するが、お主、ユーリカじゃよな?」

「そうだよ! もう、愛弟子の顔も見忘れたの? もうろくした?」

「誰がもうろくじゃ! お主の今の姿を見て、誰が神子ユーリカだと思うんじゃ!!」


 あ! そういや、髪と瞳の色、変えてたんだった……。そりゃじいちゃんも、不審に思うよね。


「ごめんなさい、私だってバレないように、色々外見をいじってるの」

「そうか……それにしても、ローデンの王子妃になったはずのお主が、何でまたここにおるんじゃ? 通りすがった時、わしゃ我が目を疑ったぞい」


 あー……それな。




 結局、立ち話も何だからと言う事で、時間も時間だし昼食を取りながら話す事になった。


 出した料理を見たじいちゃん、どこのものか全部言い当てたよ……よく知ってるね。


「わし、あの後北大陸を中心に歩きまくったからのう」

「あ、そうだ。浄化の後、本隊に合流したらいつの間にか姿を消してるんだもん。みんな、じいちゃんは邪神に殺されたんだって思ってたよ。違うって言ったのに」

「ま、それも狙ったからのう。あのままローデンに帰ったら、がんじがらめになるところじゃったわい。あ、でもお主の結婚式は遠くからちゃんと見たぞい」

「そっか……」


 ヘデックとの結婚式、あれからもう二年以上経ってるんだ。あの時は、まさかこんな事になるなんて思わなかったけどなあ。


「あ、そうだ。私ね、ここではサーリって名乗ってるから」

「ほうほう。なるほど、承知した」


 にやりと笑うじいちゃん。本当、こういう時察しのいい相手は楽だね。




 で、ご飯を食べつつぽつぽつとこれまでの事を話した。主に、ローデンを出たところから。


「そうか……あの王子がのう……」

「まるで人が変わったみたいだったよ。まあ、もういいけどね」

「ふうむ……」


 じいちゃんは何やら考え込んでいる。何か引っかかってるみたい。


「どうかした?」

「いや……確証はないでな。それよりも、ローデンを出たのはいつぐらいか?」

「えー? どれくらいだっけ?」


 何かデンセットに来てから、あれこれありすぎて日付の感覚がおかしいよ。でも、ここに来るまでに十日はかかっていないから、実質二十日も経っていないはず。


 それを話すと、またもやじいちゃんがうなり始めた。何なの?


「お主、今はサーリと名乗っていると言っておったな? 確認じゃが、ユーリカというのは、お主の実の名か?」

「違うよ。大本は私の母方の祖母の名前で、発音も若干違うくらい」

「なるほど、そうか」

「それが、どうかした?」


 え……もしかして、偽名を名乗るとダメとか? びくつきながらじいちゃんに確認すると、何と笑い出した。


「はっはっは。そんな事があるか。いやいや、今回に限っては、お主が偽名を名乗っていた事が幸いしたと思うぞい」

「幸い?」

「うむ。婚姻証明書に書いた名も、ユーリカであろう?」

「え? うん」

「王族が使う婚姻証明書は魔導具の一種でな。そこに名を書いた者を引き寄せる力がある」

「ええ?」


 何それ!? 聞いていないよ!?

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