第58話 二人だけの秘密
昼までまだ時間があるから、このまま石切場まで行ってみよう。昼ご飯までに帰れば、お留守番組も文句言わないでしょ。
少し高度を上げて、周辺を眺めながら行く。
「……薄くなってるねえ」
何がっていうと、瘴気。まあ、一応元……いや、未だに神子な私がいるせいか、濃かった瘴気が大分薄れてる。
これは別に浄化をやった訳ではなくて、私という存在がいる事による自動浄化のようなもの。
うん、神子って、空気清浄機みたいな能力もあるのだよ。ただし、対象は瘴気に限るけど。埃とかは浄化をしないと、自動では綺麗にならないよ?
瘴気の濃い土地では、生物が育ちにくいから植物もまばら。畑の作物も実りが悪く、家畜なんかも子供が生まれない、もしくは生まれてもすぐに死んでしまうという事ばかり。
でも、ここまで薄まれば、後は土地の自浄作用で何とか行けるかなー?
「でも、やっぱりやっておこう!」
勝手にそう決めて、ほうきの高度をさらに上げる。おお、かなり上まで来たなあ。
ほうきの周囲は風の結界で覆っているので、気圧や酸素濃度の問題もない。だから生身でこれだけの高さにいられるんだけど。
多分、何もしてなかったら高山病で死んでるな。そんな高度から下を見ると、北ラウェニア大陸の北側がよくわかる。本当に広大だな。
この大陸は、北と南だと形状が大分異なっている。北は幅広の大陸だけど、南は幅はそれほどない。
単純な土地の広さだけでいえば、北ラウェニア大陸の方が広いんだね。南は山脈も多いから、実は平坦な土地の多い国は少ないし。
ただ、北ラウェニアは長く魔物の瘴気にさらされたので、どこも土地が痩せていてろくな作物が育っていない。だから、食料は南から輸入する事が殆どだって聞いてる。
でも、これがちゃんとうまくいけば、多分土地の力も向上する……はず。
「大丈夫、魔大陸ですら、綺麗に浄化出来たんだから」
今では誰も行く事がないだろう、邪神がいた魔大陸。あそこは瘴気が濃すぎて、私とじいちゃんしか上陸出来なかった程。
だから、実はヘデックは最後の最後、邪神の再封印は見ていないんだよね。真実を知るのは、私とじいちゃんのみ。
そんな魔大陸は、南側は高い崖になっているので、船で待機していたヘデックは知らない。
あの広大な土地が、今や実り豊かな土地になっている事を。これも、私とじいちゃんだけの秘密なのだ。
豊かな土地は、争いの火種になる。だったら、このまま魔物の土地として忘れ去られる方がいい。
うんと未来に、誰かが探検してあの土地の事を知ったら、その時はその時だ。だから、今は黙っていよう。そう、じいちゃんと約束した。
いかん、あの時の事を思い出すと、どうしてか涙が出てくる。今はそんな場合じゃないのに。
神子にとって、浄化は息をするより簡単にできる事だ。浄化の範囲が少し広くなっても、それは変わらない。
眼下に広がる大陸を眺めながら、浄化の力を広げていく。薄く、広く。瘴気の濃い土地でいきなり強い浄化を使うと、悪い影響が出るかもしれないから。
後、教会関係にバレると面倒。特に総大主教辺りに知られると……ね。
だから、薄く広く。教会が気づかないくらい小さめに。でもその分長く浄化の力が大陸にとどまるように。
ほんの数分で、浄化は完了。後はその場に力がとどまって、ゆっくりと土地の瘴気を消していく。
さて、やる事は終わったし、石切場まで石材を買いにいかなきゃ。
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