第57話 まぶしい笑顔

 私達の様子が変なのに気づいたフォックさんが、首を傾げている。


「どうしたんだ? そんなおかしな反応をして」

「いえ……」

「実は……」


 ついさっき、石材の工房で聞いた話を、ローメニカさんと二人でフォックさんに語って聞かせた。


 聞き終えたフォックさんは、ソファの背もたれに背を預けて、天井を見ながら溜息を吐く。


「なるほどなあ……隣の領とはいえ、貴族からの注文じゃあ、工房も無碍には出来ないだろう。石切場の問題も、解決したばかりだしな」


 そうなんだよねー。何が悪いって聞かれたら、タイミングとしか答えられないっていう。


 かといって、砦の修繕を放っておくのもなあ。一応、生活はテントで出来るからいいと言えばいいんだけど。


 改めて悩んでいると、フォックさんが思い出したように提案してきた。


「そういや、サーリは石切場と楽に行き来出来るんだよな? だったら、いっそ石切場に直接言って購入してきちゃどうだ?」

「え? あー、まあ、それでもいいんだけど……」


 今回は、もらったお金を地元で使おう! ってコンセプトがあったからなあ。


 確かに、ブランシュと出会った時に、石切場で適当に切り出してきちゃえって思ってたけど、結局忘れちゃったし。


 それに、あの石切場、本来なら許可を得た人でないと、切り出しちゃいけないらしいんだ。これは後でローメニカさんから聞いた話。


 石切場は領主様が管理している領主様の財産なので、許可を得た職人しか切り出しちゃいけないし、持ち出す石の質や量をちゃんと申請しないといけないんだって。


 何せ相手が貴族の領主様だから、下手な事をしたら一発で首が飛ぶという。物理的に。


 とりあえず、フォックさんにはその辺りの事情を相談してみた。あ、例のお礼関連も聞いてみる。


「なるほどな。サーリの考え方は、この街で生きる人間にとっちゃありがたい事だ。それとな、石屋の事は心配いらん。そもそも、石切場で作業している連中も、あの石屋の者なんだ」

「そうなの?」

「ああ、だから石切場で直接注文して買ってくれば、石屋に金を落とした事になる」


 そっかー、じゃあ、石切場まで行って、石材買ってこようっと。


「あとな、さっき言っていた礼の件だが」

「だめかな?」


 フォックさんは、一瞬きょとんとした顔をしたけれど、次の分間大笑いした。


「そんな訳あるか。衛兵や門番の連中も喜ぶよ。それで、どうする? 組合で準備するか?」

「やってもらえると助かるけど……いいのかな?」


 準備って、面倒臭いよね。やってくれるなら、かかったお金、全部出すけど。


 それ言う前に、フォックさんから太鼓判をおしてもらえた。


「構わんさ。職員や他の冒険者も、うまいもん食えてタダ酒が飲めるなら、文句言うヤツなんざいねえって」

「そっかー。じゃあ、よろしくお願いします」

「任せて」


 にっこり笑ったのは、ローメニカさんだ。うん、そうだね、実際に準備の指揮とるの、あなたですよねー。


 という訳で、組合長室を出た後で、こっそりローメニカさんに多めにお金を渡しておいた。


 にっこり笑った彼女のその顔が、すごくまぶしかったです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る