第56話 書類に埋もれてる

 その後も盗賊捕縛のあれこれをローメニカさんが語り、ご主人が「ほう」とか「へえ」と言いつつ聞くという時間があった。


「という訳なのよ。だから、サーリに石材を売ってね」

「まあ、使い道が決まってんならいいか。で、嬢ちゃん、どの石をどんくらい欲しいんだ?」

「あ、えーとですね……」


 私は検索先生が以前出してくれた石材の量を口頭で告げる。


「うーん」

「ダメなの?」

「いや、ダメって訳じゃなくてな、今そんだけの石が、うちにねえんだよ」

「ええ!?」


 ローメニカさんと私の声が重なった。ないって、何でー?


「いや、実はな……」


 そう言ってご主人が教えてくれた内容は、なんともいえないものだった。


 何でも、ここデンセットがあるコーキアン領の隣にある、ウーズベル領の貴族からの依頼で、屋敷を建てる事になったらしい。


 その為の石材ももちろん準備していたんだけど、例のグリフォン騒ぎで一時石が取れなくなった。


 で、在庫をさらえて何とか納期には間に合わせたらしいんだけど、今度は建材に使えるような石材が店からなくなってしまったという話。


「石切場の方には発注かけてんだけどよ、何せ昨日今日の話だ。まだ切り出せていないし、運ぶにも時間がかかる。つうわけで嬢ちゃんよ、すまねえが他を当たってくんな」


 そりゃ、ものがなけりゃ売れないもんね。


 でも困ったな、どうしよう?




「ごめんなさい、サーリ」

「いえいえ、ローメニカさんが悪い訳じゃないですから」


 そう、今回の事は誰が悪い訳でもない。強いて言えば、例のウーズベル領の貴族かな?


「それにしても、どうしてウーズベルの貴族から、デンセットの工房に注文が入ったのかしら……」


 ローメニカさんも同じ事を考えてるらしい。嫌な感じだけど、悪い事が起きませんように。


 とりあえず、私は目の前の石材不足を何とかしなくては。いっそ、また石切場まで行って、自力で取ってくる?


 でも、そうすると当初の目的である「稼ぎ過ぎたから、街に還元という名のお金を落とす」が出来なくなるし。


 どうしたものかと悩みながら歩いていると、組合まで来てしまった。丁度いいから、例の件、フォックさんに相談していこう。


「組合、寄っていく?」

「ええ、今日、フォックさん、いますよね?」

「いるわよ、書類に埋もれて唸ってるわ」


 笑いながら言うローメニカさんに、つい脳内で雪崩を起こす書類に埋もれるフォックさんを想像してしまった。ごめん、フォックさん。


 二人で組合長室に行くと、顔色の悪いフォックさんがいた。


「ああ、お前達か……」

「あの、顔色が悪いようなんですけど、大丈夫ですか?」

「大丈夫よサーリ。組合長は書類仕事が大嫌いで、ああやって書類に囲まれていると気分が悪くなるだけなの」


 いや、それ大丈夫って言わないんじゃ……


 でも、ローメニカさんの笑顔が迫力あって、とても反論出来ませんて。


「少し休憩だ。で? サーリは今日、どうしたんだ?」


 執務用の机から立ち上がったフォックさんを、ローメニカさんが無言で見てる。怖い、怖いよその目。睨んでる訳でもないのに、すっごく冷たい!


 ここはフォックさんが振ってくれた話題に乗っておかなくては!!


「えーと、砦の石材を買おうかと」

「ああ、修繕用のか。いい石は買えたか?」


 フォックさんの何気ない質問に、ついローメニカさんが顔を見合わせてしまった。

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