第55話 石屋の頭は石並に堅い

 内心ドキドキしていると、ローメニカさんとご主人で話が進んでいた。


「で? 今日はちっこい嬢ちゃんと一緒に、どうした?」

「ああ、そうそう。こっちのサーリが、石材を購入したいって」


 ローメニカさんが本題に入ると、にわかにご主人の顔が曇る。


「この嬢ちゃんがか? 一体、うちの石を何に使うってんでい。うちの石は、石切場で切り出してきた最高級品だ。子供のおもちゃじゃねえぞ?」


 あー、なるほど。私が子供に見えるから、ただの好奇心か何かで石材を買いに来たって思われたのか。違うのになあ。


 説明しようとしたら、ローメニカさんが先に行ってくれた。

「違うわよ。砦の修繕に使うんですって。ほら、あの湖の側の」

「ああ、あれか。……って、はあ!? あの砦の修繕を、嬢ちゃんがやるってのか!?」


 ご主人、すんごく胡散臭そうな目でこっちを見てる……


 対するローメニカさんは、何だかすっごく嬉しそうな顔をしてるんだけど、何で?


「あの砦、本当は取り壊す予定だったんだけど、ジンド様が砦に巣くう魔獣を退治した報酬に、砦をサーリに贈ったのよ」

「待て待て待て。この嬢ちゃんが、あの砦にいた魔獣を、退治しただって? 確か、あそこにゃあでけえ猪の魔獣が何頭もいたって聞いてるぜ?」


 あー、あの猪かあ。あれ、後でしっかり解体してもらって、組合のみんなで焼き肉にして食べたけど、おいしかったなあ。


 まだ亜空間倉庫にお肉がたくさん入ってるから、そのうちまた焼いて食べよう。


 ご主人が混乱しているところに、ローメニカさんが得意げに続ける。


「そうよ。それ全部、彼女が一人で退治したから。それと、あなた達にとって大事な石切場のグリフォンを追い払ってくれたのも、彼女なのよ?」

「はああああ!?」


 ご主人、顎が外れそうな程驚いてる。まあ、見た目小娘な私が、次々と魔獣やら幻獣やらをどうにかしたって聞いたら、そりゃ驚くよね。


 グリフォンに関しては、親グリフォンがこっちのお願いを聞いてくれたってだけなんだけど。


「それだけじゃないわ。サーリは殆ど一人で、あのベコエイド一家を捕縛しちゃったんだから!」


 わー、ローメニカさんが胸を張って言い切った。いや、確かにあの盗賊を捕まえたのは、私だけど。街まで連れて行くのに、人の手は借りたからなあ。


 あ、その事をフォックさんに相談するの、忘れないようにしないと。ローメニカさんでも、いいかな?


「う、うううううう嘘つけえ! あの悪名高いベコエイド一家が、こんなちまっこい娘一人に捕まる訳ねえだろおお!!」


 ご主人、混乱の極み。大声出されても、事実は覆りませんよ? でも、あの盗賊を捕まえた事って、そんなに驚かれる事なのか……


 うん、やっぱり身元は隠しておくに限るね。これで元神子でした、なんて知られた日には、街中を歩けなくなりそう。


 驚き過ぎてるご主人に、ローメニカさんはすっごい得意顔で続ける。


「嘘なものですか。私だって、その場にいたんだから」

「はあ? 本当か、それ」

「本当です」


 そういやいましたね。そして、何故か盗賊を捕まえてきた私に、説教したんだった。あの時は本当に怖かった。盗賊なんか、目じゃないくらい。


 なのに、ローメニカさんったら! 何でそんなに得意げなのよ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る