第52話 領主の思惑
帰りに馬車の車内で、ジンドは同行者である銀髪の青年の前で思い出し笑いをする。
「何だ、急に」
「いえ、申し訳ありません。つい、先程のやり取りを思い出してしまいまして」
「ああ、あの娘か……」
銀髪の若者は面白くなさそうに車窓の外を眺めている。その彼が、不意に口を開いた。
「本当なのだろうか?」
「何がでございますか?」
「あの娘が、本当にベコエイド一家を捕まえたと思うか? それも、一人でだぞ?」
なるほど、目の前の若者は、あのように年若い娘が、たった一人で悪名高い盗賊団を捕縛した事を、疑っているのだ。
「そうは仰いましても、組合の職員が一部を目撃しておりますしねえ。それに、誰がやったにせよ、国内が平らかになるのは喜ばしい事ではございませんか?」
「むう……」
ジンドの言葉に、若者からは反論がない。彼自身、ジンドが先程言った事が間違っていないと思っている証拠だ。
「それに、娘……サーリは魔法を使ったと申しました。であれば、あの者、意外な掘り出し物やもしれませんぞ?」
「掘り出し物?」
「北ラウェニアでは、魔法の技術がまだまだ遅れております。我がダガード王国のみならず、周辺諸国も事情は同じです」
これには、訳がある。北ラウェニア大陸は、海を挟んで邪神の眠る魔大陸と向かい合っている。
だからか、邪神が目覚める前から魔物の被害が多かった。土地が痩せているのも、魔物の瘴気が原因と言われている。
魔法を使う者は、能力の強弱にかかわらず、魔物との戦闘の最前線に送り込まれた。
そのせいで数を減らし、従軍年齢に満たない幼い魔法使いの才能を持った者達は、密かに国外に脱出する事もあったのだ。
後悔をしても、今更魔法士達を取り戻す事は難しい。だが、現在復興めざましい北ラウェニアには、それなりの数の魔法士が入ってきている。
サーリも、その一人だ。
「あの小娘を、重用しろと?」
「そこまでせずとも。とりあえず、我が領で様子をみようと思っております」
「ふむ……」
ジンドとしては、特に魔物の影響が濃かった自領の復興に、サーリの魔法が使えないかと思っている。
――もう一つ……こちらはもう少し調べなくてはな。
ジンドの目の前で、銀髪の若者はもう先程の話題に興味をなくしたように、外を眺めていた。
大変な立場だし、生まれた環境も普通ではなかったせいか、どうにも情緒面が乏しいように見える。
本人に言ったら渋い顔をするだろうけれど、もう少し感情面も年相応になってほしいものだ。
もしかしたら。ほのかな期待があるけれど、これを今口にする訳にはいかない。全ては、南での調査が済んでからだ。
二人を乗せた馬車は、王都へ向けて街道をひた走った。
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