第51話 お金がたくさん

 ローメニカさんのおかげで、気分が浮上した私は、ジュースを飲み終えてから組合に戻った。


「おお、戻ったか」

「表に領主様の馬車、なかったですね?」

「査定が終わったから、ジンド様はお帰りになったよ」

「ふうん」


 帰りはお見送りしなくて良かったんだ。いや、別に見送りたいって思った訳じゃないけど!


 フォックさんに手招きされるまま、ローメニカさんと一緒に組合長室まで行く。


「とりあえず、全ての査定が出たぞ。ただし、全てに買い戻し希望者が現れるかどうかは、わからんが」


 それはあれですか? 持ち主が既にこの世の人ではない、的な……


 はっきり口には出さないけど、あのアジトですら攫った女性達をいいように扱っていた連中だ。盗むのに邪魔になったら、どんな手段でも使ったんじゃないだろうか。


「それと、連中に攫われていた女性達は、身元が判明した者から地元に送る事になった。それまではこっちで安全に預かるから、心配するな」


 そういえば、彼女達の事もフォックさんに丸投げだった……。いや、攫われた人達のあれこれなんて、私一人でどうにか出来るものでもないし。


「で、その女性の家族からも、謝礼が出る」

「え?」

「いらないなんて言うなよ? ジンド様の言葉、もう忘れたか?」


 う……そうでした……。私一人の問題じゃないもんなー。とりあえず、謝礼は相場の最低額に押さえてもらうように伝えておいた。


「で、ここからが本番だ。今回のベコエイド一家の捕縛関する賞金、しめて八千六百五十万ブール、これにジンド様からの報償金を上乗せして、計一億二千万ブールだ」


 額が大きすぎて、ちょっとわかんない。というか、一つ引っかかる箇所がある。


「フォックさん、賞金と報償金って、別なの?」

「ああ。ベコエイド一家に賞金をかけていたのは国で、これは国から支払われる。その盗賊団を領内で捕縛したって事で、ジンド様から別口で出るのが報償金だ」


 おお、一挙両得? それにしても、領主様ったら太っ腹だなあ。本人は細身の人だけど。


「それから、一応お宝の査定額を教えておくぞ。ちなみに、ジンド様の買い戻し分は先の報償金と一緒に支払ってくださるそうだ。で、残りの分は合計三億五千八百万ブール。これに攫われていた女の謝礼金が一人頭最低額で十五万ブール、これが人数分だ」


 ……もしかして、私ってば本当に働かなくても生きていける?


 あまりにも大きな金額にくらくらしていると、今度はフォックさんが声を落とした。


「正直、サーリのような若い娘にこれだけの金を与えるのは感心しないが、だからといって正当報酬を払わないという訳にもいかなくてな……」


 あー、そりゃそうだよねえ。外見をいじっているとはいえ、未だに成人なりたてくらいに見えるらしいから。


 おかしいなあ、これでもとっくに成人していて、元人妻なんだけど。


「とにかく、金を持ったとしても、あまり周囲に言いふらすなよ?」

「はい! 心得ました!」

「本当に大丈夫かな……」


 もう少し信用してよね、失礼なんだから。まあ、でも心配する気持ちはわかるので、当面のお金の使い道を少し話しておこうかな。


「とりあえず、近場でお金使い切るかも知れないから」

「何買うつもりだ!?」


 フォックさんだけでなく、ローメニカさんまで。二人とも、忘れたのかな? 私が前に報酬として何をもらったのか。


「いやだなあ、砦の修繕ですよ。建材だけでも結構かかりそうだし」

「あ、ああ……そうか。そういえば、あの砦に住むんだったな」


 一応、安心してくれたのかな? フォックさんもローメニカさんも何だか疲れた様子だけど。


 もらった砦って、かなり大きいからね。使う石材や木材も相当量でしょうよ。そういうの買い付けるだけで、お金なんて飛んでいっちゃうよ。


 あれ? もしかして領主様ってば、それを見越してお金くれた?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る