第49話 対価

 組合の一室に、それらは積み上げられていた。


「これが……」


 そう呟いたのは、領主様の護衛の一人。まあ、目の前にお宝が積み上げられていたら、普通の人は驚くよねえ。


 驚きもせず、普通の顔で近寄ってあれこれ見ていたのが、領主様だ。


「ふむ……確かに、我が従兄弟殿由来の品があるな」


 どうやら、領主様の従兄弟である何とか卿が所持していた宝が、私が捕まえた盗賊の……何とか一家に盗まれていたらしい。あいつら、街中でも盗みを働いていたんか。


 で、ここにそのお宝があるそうな。この場合、領主様が買い取ってくれるのかな?


 気分的には、ただで持って行ってもらってもいいんだけど。あの盗賊団、凶悪だったからか、結構な賞金首だったんだよねえ。


 それを一網打尽にした訳だから、報償金だけで向こう四、五年は遊んで暮らせそう。いや、遊ばないけど。あ、でも少しくらいなら……


「それで? サーリはいくらでこれを私に返してくれるのかな?」

「え? えーと……」

「無論、無料などというのはなしだ。さあ、いくらの値をつける?」


 焦ってフォックさんを見るけれど、今、あからさまに目線を逸らしたよね? 何って酷い組合長だ!!


 他に教えてくれそうな人を目線で探すけど、誰も彼も逸らすのは何ででしょうねえ!?


 ええい、ここは一発適当な値段を言っておこう!


「ひゃ、百万で、どうでしょう?」

「何!? 百万!?」


 え? うそ、高かったの? オロオロする私に、領主様はぽかんとした顔をしたかと思ったら、次の瞬間大笑いし始めた。


「はっはっはっは! まこと、サーリは面白い娘よのお! 我が従兄弟殿の宝物があると知って、わずか百万と口にするとは!」


 ……あれ? 高かったんじゃなくて、安かったの? 何となーくフォックさん達を見ると、みんな胸をなで下ろしている。


 いや、そんな安心した顔をするくらいなら、最初からこのくらいの値段って言っておいてよ! 何で誰も教えてくれないのさ! 意地悪? 意地悪なの!?


 涙目で睨んだら、フォックさん達はばつの悪そうな顔をしていた。


「そう睨むでない。何も教えるなと彼等に言ったのは私よ」

「え?」


 どういう事? 首を傾げる私に、領主様は優しく諭すように続ける。


「ただでさえ、まだ年若いそなたがたった一人で生け捕りにした盗賊達だ。連中の盗んだ品は、そなたに所有権がある。つまり、ここにあるものは全てそなたが好きに売り払っていい代物だ」

「そんな――」

「まあ、最後まで聞きなさい。だが、そなたは最初から奪われた人に返すよう、フォックに言ったそうだな? その高潔な精神は称賛したいところだが、それはこの辺りでは通用せぬ考えなのだ」

「通用しない……」


 何だか、頭を重い鈍器で殴られたような気分だ。


「今回はそなた一人がベコエイド一家を捕縛した。だが、これが別の者が捕縛した場合は? そなたが無料で奪われたものを返したと前例を作ってしまえば、後に続くものはその事で必ず責められる」

「責め……られる……?」

「人とは、弱いものよ。そして、時に弱さは牙になる。本来向けるべき盗賊ではなく、その盗賊を捕らえた連中に向けられる牙にな」


 話を聞いた私は、多分真っ青になっていたと思う。そんな事、考えた事もなかった。

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