第43話 おいしくいただきました
おっと、しんみりしている暇もなく、盗賊の第一弾が砦に迫っている。
「よし、蟻地獄発動!」
「え? ありじごく?」
「術の名前です」
別に名前を詠唱しなくても発動出来るけどさ、こういうのって気分だよね。
ちなみに、盗賊達は馬で駆けてきたから、馬上からは落としておいた。馬まで落とすのは可哀想だから。
それに、馬って財産の一つなんだよね。農耕馬にしてもいいし、馬車を引かせてもいい。きっと街の役に立ってくれる。
なので、蟻地獄に落とすのは盗賊の人間だけです。
おとなしいブランシュとノワールは、二匹とも私の膝の上。時折その柔らかいさわり心地で私を癒してくれる。あー、手触りいいなあー。
何だか、視線を感じる。あ、ローメニカさんがうらやましそうにこちらを見ている。
どちらか一匹を貸しますか? ……考えた結果、気づかないふりをした。ローメニカさんは、何だか寂しそうな目でこちらを見ている。
でも、ごめんなさい。この子達は貸せない!
映像として空間投影している地図上では、続々と点の色が変わっている。戦闘意思ありや、こちらの敵になり得る存在は赤、友好的な存在は青、中立的な存在は黄色。
赤の中で、戦闘不能になった場合は灰色。命を落とした場合は黒で表記されるようになっている。
見た事もない相手が、何で敵かどうかわかるかと言えば、探索と検索先生の力を利用しているから。
人って、意識的であれ無意識的であれ、他者に対していろんなものを出しているんだとか。
探索でそれらを拾い、出している人物と向けられている対象を特定、出しているものは検索先生にお任せして調べてもらう。
そうすると、表面上は友好的でも、腹の底では敵対していたり、自身は相手を良く思っていると感じていても、無意識では嫌っていたりする場合があるんだよねえ……
ちなみに、城を出る前に城内を地図で見てみたけど、見事に赤だらけでした。黄色すらないっていうね……
大変な思いをして、邪神を浄化したっていうのに、その結果得られたのが夫の浮気と周囲全部からの敵対意識だったとは。
「理不尽」
「え? 何か言った?」
「いいえ、何でも。あ、そろそろ終わりますよ」
何人か、外の結界付近まで逃げ戻った連中がいるけど、残念、その結界は通れませんよー。赤い点がいくつか結界の辺りで止まっているから、そこから先に行けなくてパニックになってたりして。
んじゃあ、彼等も馬から落として蟻地獄にご招待~。
結局、襲撃してきた盗賊を全部落とすのに、かかった時間は一時間弱。殆どは外の結界を張れる場所まで盗賊が近づくのを待っていた時間だね。
「じゃあ、私はデンセットへ知らせに行くから」
「明日の朝にした方がいいんじゃないですか?」
「いいえ、急いで彼等を捕縛して、ねぐらを吐かせないと。多分本拠地には奴らの仲間がいて、彼等が今夜中に戻らなかったら、今まで奪った財貨を持って逃げ出すわ」
なるほど。盗賊が正確な時間を計れるとは思わないから、夜が明けるまでとかざっくりな時間を決めて、それまでに本隊が戻らなかったら次の手に移る訳か。
だったら、ここまで来たら最後まで付き合いましょう!
「ローメニカさん、街から引き取り手が来るまでに、彼等から情報を引き出しておきます」
「出来るの!? ……ああ、サーリだものね。驚くべきじゃなかったわ」
……何か、失礼じゃないかね? でもローメニカさんはすぐに馬に乗って街へ向かってしまったので、私は大慌てで外側の結界を解除した。そうしないと、ローメニカさんも出られないから。
さて、じゃあ盗賊達にアジトの場所を吐いてもらいましょうか。
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