第38話 黒も珍しいらしい

 堕天馬の仔馬は、足の怪我が治るとおそるおそる立ち上がり、怪我の様子を確認するようにその場で足踏みしている。


 立ち上がっても、元々が小さいからか可愛いサイズだなあ。周囲を探索しても、母馬らしき存在はない。これも検索先生からの情報だけど、天馬は空を飛べる種族なので、行動範囲がもの凄く広いんだって。


 保護すべき親はいない。幻獣で、珍しい色の個体。このままここに置いておけば、まず間違いなく生き残れないだろう。


「よし! ブランシュ、家族が増えてもいい?」

「ピイ!」


 ん、いい返事だ。じゃあ後は、本人……本馬? の了承だけね。


「仔馬ちゃん、君、うちに来ない?」

「プルル?」


 首を傾げる仕草も、何てキュート。今までブランシュが一番可愛いと思っていたけど、この子も可愛い!


「うちにはこの子、ブランシュもいるし、悪い人達からもちゃんと守る。ご飯も出すよ。だから、一緒に来ない?」


 仔馬ちゃんは、ブランシュと私の顔を交互に見て焦ってる。ブランシュは「ピイ」と鳴いて、私は無言で頷いた。


 大丈夫、安心してうちにおいで。


「プルー」


 どうやら、承諾を得られた様子。よし、となれば、この子に名前を付けないと。後、契約か……


 ブランシュとの契約の時は、親グリフォンがやってくれたけど、今回はどうしようね。


 と思ったら、脳内で検索先生からのお知らせが。あの時親グリフォンのやり方を見て先生が学習したので、検索先生がやってくれるそうな。


 よし、ならば問題なし。


「名前、名前……プルーって鳴くからプルーじゃ芸がないし……」


 ブランシュは体の色が白だから、安直にブランシュって付けた。これもある意味、芸がないね……


 もうここまで来たら、おそろいにしようか。白でブランシュなら、体が黒いこの子の名前はこれで決まりだ。


「ノワール、君の名前はノワールだよ」

「プルー!」


 よし、気に入ったらしい。じゃあ、後は検索先生にお願いだ。親グリフォンとの時は私も名乗る必要があったけど、検索先生の場合は私の本名知ってるから省略出来るみたい。


『ココニ、契約ハナサレタ。松本エリスハ死ヲ迎エルマデ堕天馬ノワールト共ニアル。堕天馬ノワールハ松本エリスト共ニアル』


 何か、すっごい機械っぽい声が響いて、足下が紋様で光った。無事、契約が完了したらしいよ。


「これからよろしくね、ノワール」

『ヨロシク、ノワール、ヨロシク、エリス、ヨロシク』


 お? ノワールってば、話せるようになったらしい。まだちょっと片言だけど、多分ノワールも生まれて間もない赤ちゃんだもんね。


 そう考えると、これだけ話せるのは凄い。


「ノワール、私の事はサーリと呼んでね。エリスは、使ってはいけない名前なの」


 まるで、どこぞの名前を呼んではいけない人のようだけど、ある意味間違っていない……


 ノワールはすぐ馴れたらしく、私をちゃんと「サーリ」と読んでくれた。


「ピイ! ピイィィィィィィ!!」


 話せないブランシュが、むくれてる。親グリフォンを考えると、そのうちブランシュもしゃべり出しそうなんだけど、まだ無理かな?

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