第34話 グリフォンと一緒

 さすがに物騒な事は言えないので、とりあえず誤魔化しておこうっと。


「えーと、私は砦に住むから、多分大丈夫かと」


 周辺には侵入出来ないように、結界やら罠やらたくさん作る予定です。砦だから、防衛には向いているし。あ、迎撃用の仕掛けも作らなきゃ。


 でも、これも言えない……


 そのせいか、フォックさん達には凄く心配されてる。


「いや、この際だから、あそこに住むのはやめたほうがいいんじゃないか? 街中ならまだ安全だし」

「そうですね。あの朽ちかけた砦じゃあ、侵入し放題ですし」


 いえ、多分大丈夫です。結界は人どころか雨や雪、風、害虫も防いでくれる優れものだし。少なくとも、街中よりは快適に過ごせるテントもあるし。


 第一、街中は臭すぎて、私が生きていけません。絶対言えないけど。




 結局、何とかフォックさん達を説き伏せて、幻獣契約に関する申請書を提出して、本日は終わり。


 あ、グリフォン退治? の依頼料もちゃんともらったよ。退治はしていないけど、石切場は普通に使えるようになったから。


 そこで思い出したんだけど、石材切り出してくるの、忘れてた……またあそこに行かなきゃ。


 さて、帰ってきました私の家。というか、砦。


「ただいまー。って言っても、誰もいないけど、ブランシュ。今日からここがあなたの家でもあるのよ」

「ピイ!」


 心なしか、ブランシュも嬉しそう。そうかそうか、まだおんぼろだけど、家があるって、嬉しいよね。


 さて、時刻は昼時を少し回ったところ。朝一でデンセットに行って、そのまま石切場に向かったからね。


 まずは腹ごしらえからかな。


「……グリフォンって、何を食べるんだろう。よし、こんな時には検索先生だ!」


 というわけで、検索してみたら、幻獣グリフォンの主な栄養源は魔力だそうな。今は私と契約しているので、私から流れこむ魔力で十分なんだって。


 ただ、何も食べない訳ではないから、私が食べるものを分け与える分には問題ないらしい。


「味の好みもあるのか……んじゃ、一緒にお昼を食べようか」

「ピイ」


 今日は動いたから、お昼からちょっとがっつりいっちゃおう。屋台で購入した魔物の肉を焼いたものに、付け合わせの野菜炒め、具だくさんのスープとちょっと固くて酸味のあるパン。


「ブランシュも食べる?」

「ピイ!」


 嬉しそうだから、それぞれを少しずつ器に盛って出してみた。スープにくちばしを突っ込んで、熱さに驚いている。ごめんね、冷ましてから上げれば良かった。


 味の方は気に入ったみたいで、おいしそうに食べている。あー、こう、小さい生き物が一生懸命食べてる姿って、それだけで癒やされるね!


 そうか、私に足りなかったのは、癒やし要素だったのか……。そういえば、ここしばらくは殺伐とした事ばかりあったもんなあ……


 もう少し癒やしが欲しくて、焼き菓子をデザートに出してみる。あ、嬉しそう。甘い物は好きらしい。よし! 全力で貢いでやろうではないか!!


 手初めに、私の分の焼き菓子も食べるがよい。




 食休みをしてから、今後の事を考える。


「まずは修繕をしてからって思ってたけど、ブランシュの為にも早急に防衛システムを組まないとね」


 大体は結界で阻めるからいいんだけど、どうせなら不埒者達には思い知らせてやりたい。何かね、やられっぱなしってのは嫌だなって思うんだ。


 やられたらやり返せ! が絶対に正しいとは思わないけど、時にはそういうのも必要なんじゃないかと最近は考えが変わった。


 それは浮気をした元夫ヘデックの事や、街で絡んできたスリ集団や、国境付近で声をかけてきた怪しいおじさん達が原因かも。


 それまでの私の世界には、裏切る人も騙そうとする人もいなかったから。


「恵まれていたんだね……」


 でも、あの頃はそれが当たり前だと思っていた。当たり前の事って、なくなって初めて当たり前にあるものじゃないってわかるんだね。


 ちょっとしんみりしたけど、そんな事している場合じゃない。何より、ブランシュをちゃんと守って成獣になるまで育てなきゃ。


「ブランシュの親御さんに頼まれたし、気合い入れなきゃ」

「ピイ」


 わかっているのかいないのか、ブランシュは可愛い鳴き声を上げた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る