第33話 白って貴重らしいよ
フォックさんもお姉さんも、私の手の上にいるブランシュを見て、しばらく固まっていた。
やがて、背もたれに背を預けたフォックさんが、深い溜息を吐く。
「……まさか、幻獣の子をこの目で見る日が来ようとはな」
「本当ですね」
「まったく、サーリは人を驚かせる」
「同感です」
何か、酷くないかな? 別に驚かせようと思ってブランシュを連れて帰った訳じゃないのに。
というか、ブランシュに関して何か届け出をしなきゃいけないのかどうか、それを聞きたかったんだよね。
「フォックさん、ブランシュ……この子の事ですけど、街か組合に届け出って、出すものですか?」
私の言葉に、フォックさんはしばらく考え込んでからぼそりと呟く。
「確か、一応取り決めがあったはずだよな……」
「一応って」
管理がいい加減ではないのかな? そう思ってじと目で見たら、フォックさんが苦笑した。
「仕方ないだろ? 今まで幻獣と契約した人間など、この街はおろか国を見回しても一人もいなかったんだからな」
あー、なるほどー。存在するかどうかもわからないけど、一応ルールは決めておきますよーって事か。そういや、幻獣って契約云々の前に、存在自体が幻みたいなものだもんね。
その幻の子供が、今私の手のひらの上に。
「ピイ」
あー、可愛い。グリフォンって、前半分は鷲だから、かぎ爪が凄いけど、ブランシュはまだ子供なのでまだまだ平気。
これから大きくなってきたら、気をつけないとなあ。契約している以上、ブランシュが私を傷つける事はないはずだけど。
グリフォンの攻撃って、基本はこのかぎ爪とくちばしだって聞くし。
目線の高さまでブランシュを持ち上げて眺める。つぶらな瞳が可愛いよブランシュ。にまにましていたら、同席しているお姉さんから声がかかった。
「あの……つかぬ事を聞きますが、その子、ちょっと白くないですか?」
「え?」
グリフォンって、白いのが当たり前じゃないの? そういえば、親グリフォンはどっちかっていうと、全体的に黄色みが強かったような……
「子供だからじゃないですか?」
あの時、親グリフォンは何も言っていなかったし。雛……というか、子供のグリフォンはこれが普通なんじゃない?
首を傾げる私に、お姉さんは凄く不安そうに言った。
「それにしては、後ろの獅子の部分まで白いのは、ちょっと……」
お姉さんの言葉に、ブランシュのお尻の方を見てみる。グリフォンって、前は鷲で後ろが獅子だっけ。……ホワイトライオン?
「白子のグリフォンか……」
「これはまた、物騒なものを……」
え、待って。なんで物騒なんて話になるの? 何故かフォックさんもお姉さんも、残念な子を見るような目でこっちを見てる。
私がおろおろしているのを見て、二人は深い溜息を吐いた。
「あのな? ただでさえ幻獣なんてものは、金儲けに目がない連中に襲われやすい存在なんだよ」
「その中でも、これだけ色味が特殊な個体は、相当高値が付くと思われます。つまり、それだけ狙われやすくなるんです」
なんてこったい。確かに幻獣だし、狙われやすいのは覚悟していたけど、それ以上だったとは。
「一応、私と契約しているので、私以外の人間の手には渡らないはずなんですけど……」
「魔法契約か。それだって、お前さんが死んだら無効になるだろうよ」
そこまでか! とはいえ、そこらの人には負けないけど。何せ邪神を完全浄化した元神子ですので。
いや、人間相手に浄化は効かないけど、邪神がいた魔大陸で、普通に魔物倒して進んでいたからね? あの大陸、魔物だけじゃなくて瘴気でおかしくなった魔獣もたくさんいたからね?
どっちかっていうと、魔獣の方が厄介だったなあ。魔物なら、浄化一発でどうにでも出来たから。
なので、人相手ならまず負けないし、何なら相手を殺さないよう手加減を覚えないと。
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