第31話 預かりました

 うんうん唸っていると、よたよたと子グリフォンが私のもとにやってきた。


「ピイ! ピピイ!」


 何かを一生懸命訴えているみたい。さっきのずぶ濡れ状態から、大分羽根や毛皮が乾いてきたのか、何か全体にもこもこしていた。


 何が言いたいかというと、うん、とっても可愛い。そんな可愛い生き物が、小首を傾げて「ピイ」とか鳴くんだよ? 墜ちない訳がない!


「わかりました! お子さんは、責任を持って私がお預かりします!!」

『ありがとう、人間』


 そう言うと、親グリフォンはくちばしで子グリフォンを私の方へとやる。

『契約の方法は知っているか?』

「いいえ」

『そうか。では、その場にいよ』


 そう言うと、親グリフォンは一声高く鳴いた。すると足下が光って何やら模様が浮かび上がる。


『人間、名を名乗れ』


 これ、魔法契約だから、本名でないといけない。この場には私達しかいないから、いいか。


「松本エリス」


 名乗った途端、床の紋様に何かが書き加えられる。


『では次に、吾子に名前を与えてやってくれ』

「名前? うーん」


 いきなり言われてもなあ……ペットとか、飼った事ないし。グリフォン、グリフォン……あ。


「ブランシュ、ブランシュでどうかな?」


 すぐに、またしても紋様に何かが書き加えられる。あれ、それぞれの名前なのか。


 すっごい安直だけど、この子は全体的に白いから、フランス語の白でブランシュ。英語のホワイトよりは格好いいかなあ? と思って。


 でも、ブランシュってどっちかっていうと女の子向けの名前なんだよね。この子、どっちなんだろう? 後で本人……本グリフォンにでも聞いてみるか。


『ここに、契約はなされた。松本エリスは死を迎えるまで吾子ブランシュと共にある。吾子ブランシュは松本エリスと共にある』


 親グリフォンの念話と共に、床の紋様が一瞬まぶしく光って、すぐに消えた。もう、この場所には何も残っていない。


『吾子や、元気でいるのだよ? たまには会いに行くからね』

「ピイ!」


 親グリフォンは、そう言い残すと、静かに羽ばたいて空へと舞い上がっていった。


「行っちゃったね」

「ピイ……」


 どことなく、子グリフォンが寂しそう。そりゃそうか。生まれたばっかりで親元離れるんだもんね。いくら自分が決めた事だとはいえ、寂しくない訳がない。


 よく考えたら、私もあの広い砦で一人暮らしなんだから、同居人……じゃなくて、同居幻獣がいてもいいんじゃないかな。


「さて、じゃあ帰ろうか、ブランシュ。これからよろしくね」

「ピイ!」


 まるで、「よろしく」って言ってるみたいだ。そっと抱き上げると、ふわっふわで可愛い。グリフォンって鷲と獅子を足して翼を加えたような姿だから、この子もそのうち飛べるようになるんだろうな。


 さて、帰ったらフォックさんに何て言おう。

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