第30話 託児依頼されました
やがて、親グリフォンは考えを決めたようだ。こちらに向き直る。
『……わかった。吾子の為ならば、致し方ない』
「わかってもらえて良かった。じゃあ、すぐに浄化するね」
浄化の魔法は、私にとって一番楽に発動出来る魔法だ。教会の人達だと、長い修行が必要らしいけど。そこはほら、浄化特化の神子だから。
いきなりきつい浄化をすると、親グリフォンはまだしも卵が耐えられるかわからなかったから、薄くゆっくりと浄化する。
私から発する浄化の魔法が波のように広がり、辺り一帯もついでに浄化していく。山の中だから魔物による穢れは少ないけど、やっぱり瘴気が残ってるからね。
辺り一帯から瘴気が完全に消えると、私は浄化の魔法を止めた。
「どうかな?」
『おお……! 体が軽い! それに……』
親グリフォンが少し体を動かすと、その後ろから卵が姿を現す。お? ひびが入って、今にも孵化しそう。
親グリフォンと一緒に見守っていたら、ひびが広がり、やがて小さなくちばしが中から出てきた。そこからは凄く早くて、あっという間に子グリフォンが姿を現す。
「ピイ、ピイ」
おお、鳴き声が何か可愛い。全身ずぶ濡れ状態だから、まだなんともいえない外見をしているけど、一生懸命親グリフォンを探しているようだ。
『吾子……』
「ピイ! ピイピイ」
『何だと? しかし……』
「ピイピイ、ピイ!」
『むう……』
何やら、親子で話し合いの真っ最中の様子。これ、私は帰ってもいいかな? あ、石材だけは確保しなくちゃ。検索先生に聞いて、必要量は把握しているので、大丈夫。切り出しも魔法だし、亜空間収納に入れておけば重さも感じないから超便利。
なので、そろそろおいとまを……と言い出そうとしたら、親グリフォンに先を越された。
『人間。お前は少しはいい存在らしい』
「へ? ええと、ありがとうございます?」
『そんな人間に、頼みがある』
何か、面倒そうな予感。でも、ここで「嫌です」は言えないよなあ……空気読む日本人気質が、たまに憎い。
「……何でしょう?」
日本人の必殺、愛想笑いを装着して対応だ! でも、親グリフォンには通じていないらしい。変わらないテンションで続けられた……
『うむ。このような状況で頼み事をするのも憚られるが』
「……別にいいですよー」
『そうか。実は、ここにいる吾子をお前に託したい』
「あーそんな事ならお安い……って、ええええええええええ!?」
つい勢いでお安いご用とか言いかけたら、とんでもない事を言い出された。慌てる私に、親グリフォンは子グリフォンを見つめつつ、続ける。
『先程の浄化で、吾子は無事に孵化する事が出来た。その礼をしたいという。それに、吾子は人間に興味があるらしい』
「それで、私に?」
親グリフォンは頷いた。子グリフォンも頷いている。さっきまでずぶ濡れだったけど、今はもう乾いてふわっふわだ。
鷲の部分、雛のように産毛じゃないんだね。最初から小さい鷲の姿だとは思わなかったわ。でも、これはこれでかわいいのでよし。
『人間と我ら幻獣とは契約を結ぶ事が出来る。そうすれば、人の世界でも生きられると聞いた。どうか、吾子と契約してはくれまいか?』
いきなりの、幻獣との契約きましたわー。確かに、知性ある獣である幻獣となら魔法契約が出来る。名の通り魔法を使った契約で、人と契約した幻獣は人の世界で生きてもいいとされている。
契約者を持たずに人の世界に行くと、あっという間に討伐されるか、捕まえられて奴隷契約をさせられるらしい。
正直、グリフォンなんて飼った事がないから、世話の仕方もわからないし、何よりデンセットで変に目立ってしまう。
……もう遅いかもしれないけど。
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